5 災害医療の課題(大震災の教訓)
1. 東日本大震災の教訓
(1) 災害派遣医療チーム(DMAT)の役割変遷
DMATは本来、発生から48時間以内の急性期に救命を行う専門チームです。しかし東日本大震災では、重症患者よりも被災した医療機関の診療支援(慢性疾患を含む)が中心となり、活動期間は12日間に及びました。この経験から、救命医療だけでなく幅広い診療に対応できる研修の必要性が指摘されました。あわせて、医療ニーズの把握や物資搬送を担う「ロジスティクスチーム」の養成も重要な課題となっています。
(2) 災害拠点病院の現状と課題
1996年に制度化された災害拠点病院は、2024年現在、全国に776病院指定されています。自家発電や備蓄、DMAT保有などの要件を満たし、救急医療の中核を担います。しかし、実態調査では約4分の1の病院で、津波や豪雨による周辺道路の冠水など、患者受け入れが困難になる恐れが判明しました。地域内での患者受け入れ体制をさらに強化することが求められています。
(3) 広域医療搬送の課題
東日本大震災では、医療継続が困難な病院の患者を、被災していない自治体へヘリで運ぶ「広域医療搬送」が行われました。自衛隊機の活用には知事の要請が必要など、緊急時の運用にはまだ改善の余地があります。また、避難した患者が地元に戻る際の手段や費用負担についても、今後さらに議論を深める必要があります。
(4) 通信網の整備
大震災時、病院はシステム(EMIS)で情報を共有することになっていますが、電話回線の寸断により入力できない例が多くみられました。災害拠点病院には、最低限の通信手段として衛星電話や衛星回線によるインターネット環境の整備が不可欠です。
2. 熊本地震の教訓
(1) 熊本市民病院:周産期医療の停止 新生児医療の中核を担う熊本市民病院は、本震による建物やライフラインの甚大な被害により機能不全に陥りました。安全確保が困難と判断され、入院患者約310人を転院させる事態となり、なかでも新生児38人を県内外へ緊急搬送したことは、災害時における特殊医療の継続という大きな課題を突きつけました。
(2) 熊本赤十字病院:停電と断水 災害拠点病院の中核である熊本赤十字病院では、建物被害は少なかったものの、配電ケーブルの故障により自家発電が使えず停電が発生しました。また、断水により備蓄水も底を突きかけましたが、自衛隊による給水支援によってかろうじて治療を継続できました。
(3) 病院に求められる耐震化 2024年時点の医療機関の耐震化率は全国平均で約80%弱です。病院には高度な耐震性が求められており、耐震化率100%の達成は急務です。同時に、停電や断水に対する万全な備えも求められています。
3. 能登半島地震の教訓
2024年の能登半島地震では、直接死を関連死が上回る事態となりました。直接死の多くは、建物の倒壊による圧死や窒息、低体温症・凍死などが占めています。これは、耐震性の低い古い建物が被害を受けた結果であり、地震防災における耐震補強の重要性を改めて示しています。 医療対応では、超急性期のDMATに加え、継続支援を行うJMAT、さらには遺族や医療スタッフの心のケアを担うDMORTが活動しました。
災害医療の現場では、救命の段階に応じて異なる専門チームが連携して活動します。東日本大震災や熊本地震の教訓を経て、現在では急性期の救命だけでなく、避難所での継続的な医療や、遺族・スタッフへの心理的支援までをカバーする多層的な支援体制が整えられています。
ここでは、能登半島地震でも重要な役割を担った、災害医療を支える主な3つのチーム(DMAT・JMAT・DMORT)の役割を整理します。
まとめ
東日本大震災、熊本地震、そして能登半島地震。それぞれの災害から得られた医療の教訓は、現在の防災体制の礎となっています。DMATの広域運用や病院の耐震化、そして心のケアを担う多層的な支援。これらはすべて、過去の尊い犠牲から学んだ「命を守るための進化」です。
私たちにできることは、これらの教訓を「知識」として知るだけでなく、自分の住む地域の医療環境を確認し、万が一の際の備えを具体的に進めていくことです。
※本ページは、防災・減災に関する基礎的な情報を、一般の方にも分かりやすく整理したものです。
災害時の判断や行動は、地域や状況によって異なるため、必ず公的機関からの最新情報を優先してください
※本ページは『防災士教本(2025年度版)』(日本防災士機構)を参考に再構成しています。
