避難所の指定と開設
避難所とは
(1)避難所の実情
災害によって住まいを失った人や、被害のおそれがある人が一定期間生活する場所を避難所といいます。公園や広場などへ一時的に避難する「避難場所」とは異なり、避難所では生活の継続が前提となります。
避難所を利用するのは地域住民だけとは限らず、観光客や出張者など、その地域を訪れていた人が利用する場合もあります。
多くの場合、避難所となる施設は、市町村の地域防災計画であらかじめ指定されています。
(2)避難所の利用状況(過去の災害)
大規模災害では、非常に多くの人が避難所で生活することになります。
阪神・淡路大震災では、指定されていた避難所だけでは収容できず、多くの施設が追加で避難所として利用されました。神戸市では、避難者が最大約24万人となり、当時の人口の約16%に達しました。
新潟県中越地震では、小千谷市で避難者が一時2万6,000人に達し、住民の約62%が避難所生活を経験しました。東日本大震災では、発災から1週間後の時点で、避難所は2,182か所、避難者は38万6,739人となりました(復興庁)。熊本地震では、熊本県内でピーク時に855か所の避難所が開設され、避難者は18万3,882人にのぼりました(内閣府)。
また、2019年の令和元年東日本台風では、足立区が区内すべての小中学校を避難所として開設し、避難者は3万3,172人となりました。
避難所生活は、自宅の確保や応急仮設住宅への入居が可能になるまで続きます。阪神・淡路大震災では最長で約7か月、新潟県中越地震では約2か月に及びました。
一般に、災害の規模が大きいほど避難生活は長期化します。また、火山災害では噴火活動が長期化する場合があり、それに伴い避難生活も長期化する傾向があります。避難所の役割は、短期的な避難だけでなく生活の継続を支える点に特徴があります。
避難所の指定とガイドライン
2013年6月の災害対策基本法の改正により、市町村長は一定の基準を満たす施設を「指定避難所」として指定することが義務づけられました。また、避難所の生活環境を整備することについても、法律上の規定が設けられました。
内閣府の調査(2022年12月1日)によると、日本全国の避難所の状況は次のとおりです。
指定避難所:約8万2,184か所
指定福祉避難所:約8,710か所
東京都では、地域住民向けの指定避難所とは別に、帰宅困難者のための「一時滞在施設」が指定されています。
避難所運営の円滑化と生活環境の改善を目的として、内閣府は2016年に「避難所運営ガイドライン」と「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」を公表しました。
【2024年12月最新改定】能登半島地震の教訓を反映した新指針
2024年1月1日に発生した能登半島地震での過酷な避難生活を受け、内閣府は同年12月、以下の主要ガイドラインを大幅に改定しました。
- 避難所生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針
- 避難所運営等避難生活支援のためのガイドライン
- 避難所におけるトイレ確保・管理ガイドライン
これまでの「最低限の収容」という考え方から、**「災害関連死を防ぐための質の向上(TKB:トイレ・キッチン・ベッドの改善)」**へと大きく舵が切られました。
改定指針では、初動段階からの段ボールベッドの導入、温かい食事の提供(キッチンカー活用)、さらには車中泊や外国人支援など、多様化する避難形態への具体的な対応策が明記されています。
また、災害関連死を防ぐためには、避難者の健康維持対策も重要です。トイレ、入浴、寝床、車中泊への対応、清掃、ペット対応など、日常生活に関わる課題への配慮が必要となります。
福祉避難所
内閣府は「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」を公表し、2021年に改定しています。
(1)要配慮者とは
高齢者
障害者
乳幼児・妊婦
傷病者
難病患者
外国人等
※一般の避難所での生活に著しい困難を伴う方々が対象です。
これらの人は、一般の避難所では生活が難しい場合があり、特別な配慮が必要になります。
(2)福祉避難所:特別なケアを必要とする方のための避難所
福祉避難所は、一般の避難所での生活が困難な「要配慮者」が、安心して過ごせる設備や人的支援を備えた専用の二次避難所です。
① 主な対象施設 バリアフリー化が進んでおり、介護や医療のサポートが受けやすい以下の施設が指定されます。
- 高齢者・障害者施設: 特別養護老人ホーム、デイサービスセンター、障害者支援施設など。
- 児童福祉・教育施設: 保育所、特別支援学校など。
- 地域の公共・保健施設: 公民館、保健センター、保健所など。
- 民間宿泊施設: 協定を結んでいるホテルや旅館など。
② 避難生活を支える機能 一般の避難所とは異なり、以下の環境整備が求められます。
- バリアフリー環境: 段差解消、スロープ、手すり、多目的トイレの完備。
- 居住環境の維持: 換気・冷暖房設備による体調管理。
- 電源の確保: 医療機器(吸引器、人工呼吸器等)の使用を支える非常用電源。
- 専門スタッフの配置: 相談員や介護スタッフによる24時間の生活支援。
避難所の質の向上
災害関連死を防ぎ、早期の復旧・復興につなげるためには、避難所の生活環境を改善することが重要です。内閣府は「避難所の確保と質の向上に関する検討会」を設置し、避難所環境の改善について検討を行いました。
具体的には、次のような点が重要とされています。
- トイレ環境の改善
- 食事環境の改善
- プライバシーに配慮した居住空間
- 過密状態の緩和
これらは、避難者の健康と生活を守るうえで重要な要素です。
また、避難所環境を考える際の参考として、国際的な人道支援基準である「スフィア基準」が紹介されています。
国際標準「スフィア基準」:命を守るための最低ライン
日本の避難所環境を改善する指標として注目されているのが、国際赤十字などが策定した「スフィア基準(人道憲章と人道対応に関する最低基準)」です。これは、いかなる状況下でも人間が尊厳を持って生きるための「最低基準」を数値で示しています。
- 居住スペース: 1人あたり最低3.5平方メートル(畳約2.1枚分)を確保する。
- トイレの数: 最低でも20人に1つ(男女別)を設置する。
- 水の確保: 飲料・衛生を含め、1人1日最低15リットルを確保する。
日本の避難所は、特に発災直後においてこれらの基準を大きく下回ることが多く、国際的な視点からも生活環境の抜本的な改善が急務となっています。
まとめ
避難所は、災害時に被災者が一定期間生活する場所であり、学校や公共施設などがあらかじめ指定されています。過去の大規模災害では、多くの人が長期間にわたり避難所生活を経験してきました。そのため、避難所の指定や運営については法律やガイドラインが整備され、生活環境の改善も重要な課題となっています。また、高齢者や障害者など要配慮者のための福祉避難所の確保や、トイレ・食事・居住空間など生活環境の質の向上も求められています。避難所は単なる一時的な避難の場ではなく、被災者の健康と生活を支える重要な基盤となります。
※本ページは、防災・減災に関する基礎的な情報を、一般の方にも分かりやすく整理したものです。
災害時の判断や行動は、地域や状況によって異なるため、必ず公的機関からの最新情報を優先してください
※本ページは『防災士教本(2025年度版)』(日本防災士機構)を参考に再構成しています。
