交通インフラ
大震災と鉄道被害
大地震では、列車の脱線や鉄道施設の損傷など、鉄道にも大きな被害が発生する可能性がある。鉄道は広い範囲に線路や構造物を持つため、被害の形態も多様になりやすい。
1995年の阪神・淡路大震災では、鉄道に深刻な被害が発生した。脱線した列車は16本で、震度7地域を走行していた14本のうち13本が脱線した。高架橋や駅舎などの施設にも大きな被害が生じ、山陽新幹線では8か所、在来線では24か所、合計32か所で落橋が確認された。芦屋駅ではホームの倒壊も発生した。この地震による鉄道関係者と乗客の被害は死者3人、負傷者81人であったが、旅客の死亡者は発生していない。
2004年の新潟県中越地震では、営業運転中の新幹線が初めて脱線した。この事故の復旧には約2か月を要した。
2011年の東日本大震災では、東日本の広い範囲で列車の運転が中止された。太平洋沿岸では津波警報が発表され、海岸線の路線では運転見合わせや乗客の避難が行われた。地震により回送中の新幹線1本と貨物列車1本が脱線し、津波によって折り返し停車中の列車を含む5本の旅客列車が流されたが、乗客の死亡者は発生しなかった。
2016年の熊本地震では、前震(震度7)により、JR熊本駅付近を走行していた回送中の九州新幹線が全車両脱線した。また、高架橋の亀裂や軌道の損傷、防音壁の落下などの被害が発生し、在来線でも土砂崩れによる線路流出などが確認された。
2022年の福島県沖地震では、営業運転中の新幹線が脱線したほか、新幹線設備では電柱や土木設備の損傷、軌道の変位など約1,000か所の被害が確認された。在来線でも約140か所の設備被害が発生した。
鉄道の地震対策
(1)鉄道施設の耐震化
阪神・淡路大震災を受け、当時の運輸省(現 国土交通省)は「鉄道施設耐震構造検討委員会」を設置し、鉄道構造物の耐震補強に関する提言を行った。
これを受けて鉄道各社では、高架橋などの耐震補強工事や脱線防止ガードの設置が進められてきた。阪神・淡路大震災後に実施された高架橋の緊急耐震補強の効果もあり、2011年の東日本大震災では高架橋の大規模な崩壊は確認されなかった。
(2)列車の緊急停止システム
地震発生時の被害を軽減するためには、列車をできるだけ早く減速・停止させることが重要である。そのため、新幹線では新幹線早期地震検知システムが整備されている。
このシステムは、地震の初期微動であるP波を検知し、地震の規模や震源位置を推定して、主要動であるS波が到達する前に非常ブレーキを作動させる仕組みである。
2004年の新潟県中越地震では、浦佐駅付近を走行していた上越新幹線「とき」が、このシステムにより緊急停止した。結果として列車は脱線したが横転は免れ、乗客・乗員154人に死傷者は発生しなかった。
在来線でも、早期地震検知システムや緊急地震速報を活用し、一定規模以上の地震が推定された場合や、沿線の地震計が強い揺れを検知した場合に、運転士へ緊急停止情報を自動的に伝達する仕組みが整備されている。
(3)新幹線の地震対策
新潟県中越地震で営業中の新幹線が初めて脱線したことを受け、国土交通省に「新幹線脱線対策協議会」が設置された。2005年の報告をもとに、JR各社では次の対策が進められている。
・構造物の耐震対策
・早期地震検知システムの充実
・脱線・逸脱防止対策の促進
構造物の耐震対策では、東海道・山陽新幹線、東北新幹線(盛岡以南)、上越新幹線などで高架橋柱の耐震補強が進められている。また、阪神・淡路大震災以降に開業した新幹線は、新しい耐震基準に基づいて設計されている。
早期地震検知システムでは、地震計の増設や機能向上が進められている。さらに、防災科学技術研究所が整備した海底地震観測網のデータを活用することで、列車停止までの時間短縮も期待されている。また、脱線防止ガードや逸脱防止ガードの整備など、脱線時の被害を抑える対策も進められている。
3 列車乗車中に地震が発生した場合
鉄道各社ではさまざまな地震対策が進められているが、地震の発生時間や場所によっては被害の状況が大きく変わる可能性がある。
阪神・淡路大震災も、もし通勤ラッシュの時間帯である午前8時頃に発生していた場合、最悪で約1,100人が死亡し、死傷者は約1万人に達した可能性があると指摘されている。
列車に乗車中に地震が発生した場合、あわててドアを開けて線路に飛び降りると二次被害を招くおそれがあり危険である。
🚉 列車内で地震に遭った時の行動
手すりや吊り革にしっかりつかまり、転倒を防ぐ。
勝手に線路へ降りない。架線事故や対向列車の危険があります。
アナウンスを聞き、落ち着いて避難を開始する。
列車が停車した後は、乗務員のアナウンスや指示に従って行動することが重要である。また、大きな被害が発生した場合には、乗客同士で助け合う行動が必要になることもある。地震発生後は、落ち着いて行動することが大切である。
大規模災害時の交通規制と緊急輸送路
1 大震災時の道路状況
大地震では、道路の損壊や建物倒壊などにより道路交通にも大きな影響が生じる。
阪神・淡路大震災では、倒壊した建物などにより道路が閉塞し、通行できる幹線道路が限られた。そのため、避難や物資輸送、通勤の車両が集中し、発災直後から大規模な交通渋滞が発生した。渋滞は緊急車両の通行にも大きな影響を与えた。
「交通規制が開始された翌日も渋滞は続き、30分でわずか100メートルしか進まない状況も見られました。この深刻な渋滞が、緊急車両の通行を阻んだという教訓を忘れてはなりません。」
その後、復旧が進み始めた2月25日には、標章の変更や通行道路の区分、違反車両の排除など、より厳しい交通規制が実施された。
新潟県中越地震では、高速道路や一般道路にも被害が発生したが、発災から約19時間後には北陸自動車道と関越自動車道が応急復旧し、緊急交通路として指定された。
東日本大震災では、橋の流出や法面崩壊により多くの道路が通行止めとなり、高速道路15路線、直轄国道69区間、都道府県管理国道102区間、県道など540区間で通行止めが発生した。
熊本地震でも高速道路の陥没や法面崩落が発生し、九州自動車道などで全線通行止めとなる区間が生じた。一般道路でも道路の寸断や阿蘇大橋の落橋などの被害が確認された。
2 放置車両対策
大規模災害では、道路上に放置車両や立ち往生車両が発生し、救助活動や物資輸送の妨げとなる可能性がある。
この問題に対応するため、2014年の災害対策基本法改正により、道路管理者が放置車両を強制的に移動できる制度が整備された。
緊急車両の通行ルートを確保する必要がある場合、道路管理者は区間を指定し、通行の妨げとなる車両の運転者に移動を命令できる。運転者が不在の場合には、ホイールローダーなどを使用して車両を移動させることも可能となっている。
さらに、必要に応じて沿道の土地を一時的に使用し、車両の保管場所を確保することも認められている。
3 緊急輸送道路の確保
東京都では、震災時に救助活動や物資輸送を支える「命の道」となる緊急輸送道路の確保を進めています。この道路は、発災直後から一般車両の通行が厳しく制限され、救急車や自衛隊などの緊急車両専用となります。「避難のための自家用車」が通行できる道ではないことを、正しく理解しておく必要があります。また、民間事業者との協定により車両や船舶の確保も行われている。
東京都震災対策条例では、震災時に車両による避難を行わないことや、交通規制を守ることを都民に求めている。さらに、緊急輸送道路の機能を確保するため、沿道建築物の耐震化も進められている。重要な緊急輸送道路沿いの建築物では、耐震診断の義務化や耐震改修費用の助成制度が整備されている。
4 地震発生時の運転者の行動
地震発生時には、帰宅や避難のために車両を使用することは控えることが重要である。通行禁止区域では、速やかに道路外へ車両を移動させる。
緊急交通路では、速やかに他の道路や道路外へ車両を移動させる。やむを得ず道路上に車両を置いて避難する場合は、次の原則を守る。
運転者の避難の原則
・交差点を避け、道路の左側に寄せて停車する
・エンジンを止め、キーはつけたままにする
・窓を閉め、ドアはロックしない
・貴重品は車内に残さない
高速道路走行中の場合
・減速して左側に寄せて停車する
・カーラジオなどで地震情報や交通情報を確認する
・危険が切迫していない限り、むやみに走行しない
・警察や道路管理者の指示・誘導に従って行動する
まとめ
大地震では、鉄道や道路などの交通インフラにも大きな被害が発生する可能性がある。鉄道では脱線や構造物の損傷、道路では通行止めや交通渋滞が生じ、救助活動や物資輸送に影響を及ぼすことがある。
こうした被害を踏まえ、鉄道の耐震化や地震検知システムの整備、緊急交通路の確保、放置車両対策など、さまざまな制度や対策が進められてきた。災害時には、交通規制を守り、鉄道や道路の利用においても落ち着いて行動することが重要である。
※本ページは、防災・減災に関する基礎的な情報を、一般の方にも分かりやすく整理したものです。
災害時の判断や行動は、地域や状況によって異なるため、必ず公的機関からの最新情報を優先してください
※本ページは『防災士教本(2025年度版)』(日本防災士機構)を参考に再構成しています。
