地区防災計画
地区防災計画の目的
2013年の災害対策基本法の改正により、「地区防災計画制度」が新たに導入されました。
これまでも地域防災力の向上の重要性は指摘されてきましたが、地域によっては具体的な取り組みが進みにくいという課題がありました。地区防災計画は、地域の住民が主体となり、防災について話し合いながら作成する計画です。住民自らが地域の状況を確認し、必要な行動を整理することで、地域防災力の向上を実践的に進めることができます。
この制度は、地域の防災対策を住民主体で進める仕組みとして位置づけられています。制度化によって、地域の主体的な取り組みを継続的に進めるための枠組みが整えられたといえます。
住民が行う地域防災対策の3つの要点
地域防災力を高めるために、住民が取り組むべき主なポイントは次の三つです。
(1)災害履歴・災害環境・災害リスクの確認
地域防災の出発点は、自分たちの地域を理解することです。
過去にどのような災害が発生したのか(災害履歴)
地形や立地条件、まちの構造(災害環境)
将来想定される災害の可能性(災害リスク)
これらを確認することで、地域の防災課題を具体的に把握することができます。代表的な取り組みとしては、「災害図上訓練」「防災まち歩き」などがあります。また、国土地理院では、過去の災害の教訓を伝える「自然災害伝承碑」を地図上で確認できる仕組みが整備されています。
2019年9月1日の防災の日には、「自然災害伝承碑」を掲載した2万5,000分の1地形図が刊行されました。この地形図には、津波、洪水、火山災害、土砂災害などの教訓を伝える石碑の位置が示されています。
2024年12月19日時点では、全国591市区町村に2,234基の自然災害伝承碑が確認されています。
(2)防災計画の立案と役割分担
地域の災害リスクを共有した後は、それに対応するための計画を作成します。
計画には、例えば次のような内容が含まれます。
- 避難の方法
- 避難誘導
- 初期消火
- 安否確認
- 避難所の開設・運営
これらの役割分担は、自主防災組織の班編成などを参考に整理することができます。
計画の作成は、役員や一部の担当者のみで決めるのではなく、地域住民が参加するワークショップなどを通じて検討することが望ましいとされています。
こうした場を設けることで、市区町村の担当職員や地域企業、学校、福祉施設などとの連携が生まれる場合もあります。また、地域の人材を発掘し、育成する機会にもなります。
(3)訓練の実施
計画を作成した後は、その内容に基づいた訓練を実施します。
訓練では、次の点が重要になります。
できるだけ多くの住民に参加してもらうこと
記録係を設け、計画どおり実施できたか確認すること
机上で作成した計画は、実際の状況では想定どおりに機能しない場合があります。訓練によって課題を確認し、その結果をもとに計画を見直すことが重要です。
特に重要な訓練の一つが、避難所開設・運営訓練です。可能であれば、100人以上の住民が参加する規模で実施することが望ましいとされています。
こうした取り組みを整理し文章化していくことで、地区防災計画の骨子が形成されていきます。
地区防災計画に盛り込む防災活動
地区防災計画を作成する際には、最初から完成度の高い計画を目指す必要はありません。
重要なのは、住民が地域の防災について話し合い、共通の認識を持つことです。計画書の作成自体が目的ではなく、災害時の行動を地域で共有し、実際に訓練できる体制をつくることが大切です。
そのため、基本的な内容から始め、活動を重ねながら計画を見直し、段階的に充実させていく方法が望ましいとされています。
例えば、次のような取り組みが基本となります。
自主防災組織の役員など、活動する仲間を集める
地域の地形や環境を理解する
災害を具体的に想定する
自助・共助と行政との連携を整理する
役割分担を明確にする
訓練を行い、計画を見直す
災害図上訓練や避難所開設訓練などを繰り返し実施しながら、地域の実情に合った地区防災計画を作成していくことが重要です。
地域特性に応じた計画づくり
地区防災計画は、地域の特性を踏まえて作成する必要があります。
例えば、「海に面している地域」「内陸部の地域」「火山の近くの地域」では、想定される災害の種類や被害の形態が大きく異なります。そのため、地域の地理・地形や被害想定を十分に考慮することが重要です。ここでは、都市部と中山間地域における主な留意点を整理します。
都市部における主な留意点
(1)木造住宅密集地域
大地震が発生した場合、木造住宅が密集している地域では、建物の倒壊や同時多発的な火災によって大規模な市街地火災が発生するおそれがあります。
阪神・淡路大震災では、地震に伴って多数の火災が発生し、古い木造住宅が密集する地域を中心に約66ヘクタールが焼失しました。
この地震は早朝に発生し、火気の使用が比較的少ない時間帯であり、風も弱い状態でしたが、それでも火災は同時多発的に発生し、消防力を上回る規模で拡大しました。
調査の結果、延焼を食い止めた要因として、次のものが確認されています。
このように、個人の防火意識だけでなく、延焼を防ぐ『まちの構造』を地区防災計画に盛り込むことが、都市部における被害軽減の鍵となります。
(2)マンション防災
【マンション特有のリスク】高層階の孤立を防ぐために
停電時にはエレベーターが停止し、高層階の住人は「上り下り」という物理的な壁に直面します。特に高齢者や乳幼児がいる世帯では、食料調達すら困難になる「高層難民」のリスクが現実味を帯びます。
- 水洗トイレの停止: 電動ポンプの停止により、水が出てもトイレが流せない事態への備え。
- 階段昇降の限界: 20階建て以上のビルでは、1日1往復するだけでも体力的に過酷な負担となります。
そのため、管理組合とは別に自主防災組織を設け、「各フロアでの安否確認体制」や「階段利用者のサポート計画」など、マンションの実情に即した独自の防災計画を作成することが不可欠です。
(3)地下街・大型商業施設での防災対応
大都市では地下空間の利用が進み、地下街や駅構内の商業施設の利用者も増えています。
地下空間では、次のようなリスクが考えられます。
地震による構造被害
火災発生時の避難
爆発や有毒ガスの発生
大規模水害による浸水
混乱やパニックの発生
地下空間を管理する事業者は、防災体制の整備や利用者への周知を進める必要があります。また、災害は自宅にいるときだけでなく、外出先で発生する場合もあります。
そのため、地下街や大型商業施設などで災害に遭遇した場合の行動についても、地域の防災計画の中で整理しておくことが重要です。
中山間地域における主な留意点
2004年の新潟県中越地震では、土砂災害によって旧山古志村などが孤立する事態が発生しました。また、2024年1月1日に発生した能登半島地震でも、道路の寸断などにより孤立する集落が確認されています。
中央防災会議の推計では、南海トラフ地震が発生した場合、道路や港湾の被害によって孤立する可能性がある集落は、農業集落で約1,900、漁業集落で約400にのぼるとされています。
中山間地域の防災課題と「自立型」コミュニティの構築
中山間地域では、道路の寸断による「集落の孤立」を前提とした計画づくりが不可欠です。行政の支援が届くまでの空白期間を、地域がいかに自立して乗り切るかが焦点となります。
① 想定される主な課題 地形や人口構成の影響により、以下の事態が深刻化するおそれがあります。
- 情報の断絶: 通信障害による被害状況の把握困難、外部との連絡途絶。
- 物理的な孤立: 道路損壊による救助部隊の未到達、物資輸送の停滞。
- 要配慮者支援: 高齢化率の高い地域における避難補助、健康管理の維持。
- 防犯・安全面: 住民避難後の空き家対策、ヘリコプター運用のための場所確保。
② 地域内部で強化すべき「共助」の仕組み 外部支援を待たずに対応できる体制を整えるため、以下の「人材」と「物資」の確保を計画に盛り込みます。
- 専門人材の把握: 地域内の「医療経験者」「重機操作ができる人」「防犯活動の経験者」などを事前にリスト化し、役割を明確にしておきます。
- 長期の物資備蓄: 孤立の長期化を考慮し、一般的な「3日分」ではなく、「1週間から10日程度」の食料・生活物資を地域単位で確保することが推奨されます。
中山間地域の地区防災計画では、地域コミュニティが一定期間「自給自足」できる体制を整える視点が、命を守る鍵となります。
まとめ
地域の「自然災害伝承碑」を確認することから始めよう 地区防災計画は、立派な書類を作ることが目的ではありません。まずは、地域の災害リスクを正しく知ることから始まります。
国土地理院の地図等で、全国2,200基を超える「自然災害伝承碑」を確認してみてください。先人が遺した石碑は、その土地固有の危険を今に伝える最良の教科書です。
都市部ならマンションの停電対策、中山間地域なら1週間以上の孤立対策など、地域特性に応じた「実効性のある計画」を住民同士の対話で形にしていくこと。その継続的な対話と訓練のプロセスこそが、災害時に一人でも多くの命を救う力となります。
※本ページは、防災・減災に関する基礎的な情報を、一般の方にも分かりやすく整理したものです。
災害時の判断や行動は、地域や状況によって異なるため、必ず公的機関からの最新情報を優先してください
※本ページは『防災士教本(2025年度版)』(日本防災士機構)を参考に再構成しています。
