男女共同参画の視点に基づく防災対策
男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン
大規模災害では、要配慮者や女性、子どもなどが深刻な影響を受けやすいことが指摘されています。ここでは、男女共同参画の視点から見た課題と、その対応について説明します。
東日本大震災では、岩手・宮城・福島の3県における犠牲者数が、男性より女性の方が約1,000人多い結果となりました。災害による死亡率は女性の方が高い傾向があり、災害後には女性の失業者が増えるほか、出社制限の影響も受けやすい傾向が見られます(特にパートタイマーなど)。
さらに、被災後の生活では、女性用品の不足やストレスの集中など、女性特有の課題も多く指摘されています。このような状況から、防災対策には男女それぞれの生活状況や役割の違いを踏まえた視点が欠かせないといえます。災害時の課題は、平常時の社会構造を反映して現れやすいという特徴があります。
こうした課題への対応として、平常時から男女共同参画の視点で防災や災害対応を考え、訓練を行っておくことが重要です。
国は2013年5月に「男女共同参画の視点からの防災・復興の取組指針」を示し、さらに2020年5月には「男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン」を取りまとめ、次の基本方針を示しました。
① 平常時からの男女共同参画の推進が防災・復興の基盤となる
② 女性は防災・復興の主体的な担い手である
③ 災害から受ける影響やニーズの男女差に配慮する
④ 男女の人権を尊重し、安全・安心を確保する
⑤ 女性の視点を取り入れた民間との連携・協働体制を構築する
⑥ 男女共同参画担当部局や男女共同参画センターの役割を位置づける
⑦ 要配慮者対応においても女性のニーズに配慮する
特に②に示されているように、地域防災では女性が「主体的な担い手」と位置づけられており、日頃から男女共同参画の視点に基づいて防災に取り組むことが重要です。
避難所における女性への配慮
女性への配慮が特に求められる場面の一つが、避難所の運営です。突発的に開設される避難所では、経験豊富な自治体職員や専門家、経験者などが十分に配置されない場合も多く、さまざまな問題が生じやすくなります。
男女共同参画の視点は、避難所の運営だけでなく、防災備蓄、仮設住宅、復興の過程においても重要です。
日頃から男女の協働を進める
国は2010年12月、2020年までに「指導的地位に占める女性の割合を少なくとも30%程度とする」という目標を掲げました。しかし、女性が活躍できる環境づくりは、依然として十分とはいえない状況です。
避難所運営に関する多くの課題は、阪神・淡路大震災の時点ですでに指摘されていました。それにもかかわらず、災害のたびに同様の問題が繰り返し指摘されることは、地域における対応が十分に進んでいないことを示しています。
自主防災組織や自治会では、役員に複数の女性を選任し、会合の場所や時間についても女性が参加しやすいよう配慮することが重要です。日頃から男性役員と女性役員が同じ場で意見交換を行い、防災や訓練計画について共通の認識を持っておくことが必要です。
また、自治体では防災担当職員や災害対策本部の構成員が男性に偏っている場合も少なくありません。女性の防災人材を育成し、実際の防災体制の中に配置していくことが重要です。例えば、応援協定に基づいて被災地へ職員を派遣する際には、女性職員も必ず派遣するなどの対応が求められます。
外国人に対する支援
急増する訪日外国人と「災害」のギャップ
新型コロナ対策の緩和以降、訪日外国人は急増しています。2024年10月の訪日外客数は331万2千人と単月で過去最高を記録。年間累計も統計開始以来最速で3,000万人を突破しました。
政府は2030年に6,000万人の達成を目標としていますが、ここで課題となるのが「災害リスクの共有」です。世界には地震や台風を経験したことがない国も多く、外国人にとって日本の災害を具体的に想像することは容易ではありません。特に日本語に不慣れな場合、「避難指示」や「津波」といった言葉の意味を瞬時に理解できず、行動が遅れるリスクがあります。
💡 命を救う「やさしい日本語」と「即効英語」の活用
災害現場では、難しい用語を避け、短く、はっきりとした表現を使うことが重要です。翻訳アプリに頼り切れない緊急時には、以下の言い換えが有効です。
災害時の外国人支援体制とツール
外国人が多く住む自治体では、日本語教室、外国語による情報提供、外国人相談窓口の設置、外国にルーツを持つ子どもの学習支援など、「多文化共生のまちづくり」が進められています。
災害時には「災害多言語支援センター」を設置し、避難所の巡回や通訳ボランティアの派遣などを行う取り組みもあります。また、自治体と観光協会、宿泊施設などが連携し、避難情報の提供や避難誘導、帰宅支援体制などを整備している例もあります。
外国人への情報提供ツールとしては、観光庁が提供する災害情報アプリ「Safety tips」などが活用されています。
避難所における配慮
普段から事前の準備を
避難所の生活問題は軽視されがちですが、大規模災害が発生すると発災直後から始まります。自宅を失った動揺の中で、避難所生活を冷静に開始することは容易ではありません。
そのため、普段から避難所ごとに運営計画書を作成しておくことが望まれます。内容としては、運営組織、生活ルール、部屋割りなどが中心になります。
計画の作成にあたっては、避難所となる施設の管理者、行政機関、そして避難生活が想定される地域住民が協議しながらまとめることが必要です。また、計画が完成した後は、「避難所運営ゲーム(HUG)」や実際の施設を使った訓練を行い、実効性を確認することが重要です。
東日本大震災では、高齢者、障害者、乳幼児、妊婦、女性、外国人、帰宅困難者など、多様な人々への配慮が必要になることが明らかになりました。特に、女性や子育て家庭、災害時要配慮者などへの配慮不足は、避難所運営に女性の視点が十分に取り入れられていなかったことが原因の一つとされています。
そのため、避難所運営の意思決定の場に女性が参加することが重要とされています。
要配慮者対策
災害対策基本法では、「高齢者、障害者、乳幼児その他の特に配慮を要する者」を要配慮者と定義しています。
日常的に介護や支援が必要な人は、災害時にはできるだけ福祉避難所で生活することが望ましいとされています。しかし、福祉避難所には限りがあるため、多くの要配慮者が一般の避難所で生活することになります。
そのため、避難所では専門家や経験豊富なNPO、ボランティアの助力を得ながら、可能な限り支援体制を整えることが重要です。平時から専門家を招いた勉強会や支援訓練などを行っておくことも大切です。
避難所生活と食の問題
避難所では、食事や栄養の偏りも大きな課題になります。発災直後は命をつなぐために食べることが重要ですが、避難生活が長期化すると、栄養バランスやカロリー過多にも注意が必要になります。
近年は、非常時に「最低限食いつなぐ」というイメージの非常食だけでなく、被災後の健康維持を考えた「災害食」という考え方も広がっています。
- 低栄養防止: 高齢者のための介護食(スマイルケア食)の備蓄
- 健康維持: ビタミン、ミネラル、食物繊維を補う「野菜ジュース」や「乾燥野菜」の活用
- 心理的ケア: 甘いものや、温かい汁物によるストレス緩和
避難所で特に課題となるのは、高齢者、乳幼児、食物アレルギーのある人などへの対応です。高齢者の中には柔らかい食事が必要な人もおり、乳幼児にはミルクや離乳食が欠かせません。熊本地震の教訓を踏まえ、乳児用液体ミルクの国内製造・販売も可能となり、災害時の備えとして普及が進んでいます。
また、炊き出しなどの支援食は炭水化物に偏りやすく、ビタミンやミネラル、タンパク質が不足しがちです。避難生活では身体を動かす機会も少なく、カロリー過多や虫歯なども問題になることがあります。
消費者庁では、包装された加工食品について、食物アレルギーの原因となる以下の特定原材料等について表示を義務付けています。
避難所には外国人の人々も避難してきます。言語や文化、生活習慣の異なる人々と、避難所で円滑な共同生活を送ることも考えておく必要があります。
例えば、ムスリム(イスラム教の信者)の人々は、豚肉やアルコールなど口にしない食品が多く、イスラム法で許された食品をハラールと呼びます。避難所の食事に関わる人は、食物アレルギーや外国人の食生活にも留意し、必要に応じて専門家の助言を得るよう心がけることが大切です。
なお、熊本地震の際には、熊本大学黒髪体育館の避難所で、避難してきた外国人や食の制限がある市民にも避難所運営への参加を呼びかけ、異なる文化を理解し合う場となった事例もあります。
まとめ
大規模災害では、女性、子ども、高齢者、外国人など、さまざまな立場の人が避難所で生活することになります。そのため、防災対策や避難所運営では、多様な人々の状況やニーズを踏まえた配慮が不可欠です。
男女共同参画の視点を取り入れること、外国人への情報提供や支援体制を整えること、要配慮者への支援を平常時から準備しておくことは、避難生活の混乱を減らし、地域全体の安全につながります。
災害時にこうした配慮を実現するためには、平常時から地域や行政が協力し、具体的な計画や訓練を重ねておくことが重要です。