倒壊家屋からの救出・救助と応急手当
大規模な地震が発生した直後、公的な救急機関(公助)が到着するまでの「空白の時間」に、その場にいる住民がどう動くかが生死を分けます。ここでは、未経験者でも知っておくべき救出・救助の基本と、命をつなぐ応急手当の要点を整理します。
倒壊家屋などからの救出・救助活動
救助活動の鉄則は「二次被害の防止」と「組織的な行動」です。
安否確認:自分、家族、そして隣人へ
パニックを抑え、以下の順序で状況を把握します。
- 自己の安全確保: 自身の怪我を確認し、必要なら火の始末を行う。
- 身近な安否確認: 家族、職場内の同僚の無事を確認する。
- 地域の要配慮者を優先: 高齢者、障害者、乳幼児など、自力避難が困難な世帯を優先して巡回する。
- 応援の要請: 救助が必要な人を発見したら、一人で無理をせず、大声で周囲に協力を求める。
救助資機材の確保:身近にあるものを武器にする
自力で動かせない重量物がある場合、即座に資機材を確保する必要があります。
- 地域の備蓄を活用: 防災倉庫や指定避難所にバール、ジャッキ、のこぎり等が備えられていないか、平常時から場所を把握しておく。
- 民間からの借用: 近隣のガソリンスタンド、建設会社、自動車整備工場などは救助に役立つ資機材(ジャッキや工具)の宝庫です。緊急時には協力を依頼することを検討してください。
- 連絡の優先順位: 自力救出が困難と判断した場合は、速やかに消防(119)、警察、消防団、または地域の自主防災組織の本部へ状況を伝えます。
倒壊家屋からの救出の基本
救出作業では、まず取り残されている人に声をかけて安心させ、人数や状況を確認する。そのうえで、周囲の人と協力しながら安全を確保して作業を進める。
作業者はヘルメットや軍手、厚底の靴などを着用し、次のような危険に注意する。
- 上からの落下物
- 釘や針金、鉄筋などによるけが
- 床の踏み抜き
- 余震による建物の崩壊
二次災害を防ぐため、現場では周囲の状況を監視する役割の人員を配置する。また、火災発生の可能性もあるため、水や消火器を近くに準備し、可能であればガスの元栓や電気のブレーカーを遮断する。
救出の優先順位は、次のとおりである。
- 命の危険が切迫している人
- 比較的容易に救出できる人
無理に引き抜くと負傷を悪化させる恐れがあるため、障害物を取り除きながら慎重に対応する。
長時間、太い梁などに挟まれている場合はクラッシュシンドロームの危険がある。この場合は無理に救出せず、医療関係者の到着を待つことが望ましいとされている。
救出手順:重量物を持ち上げる「てこの原理」
倒壊した柱や梁(はり)の下敷きになっている場合、身近な道具で「隙間」を作ることが救出の鍵です。
- 使用する道具: 金てこ(バール)、鉄パイプ、角材、自動車用ジャッキ
- 具体的な方法:
- 支点を作る: 角材など安定したものを支点にし、てこの原理で隙間を作る。
- 徐々に広げる: 隙間を少しずつ広げ、挟まれている人の圧迫を軽減する。
- 崩落防止: 持ち上げた部分は、即座に角材などを差し込んで固定し、再び沈み込まないようにする。
- ジャッキの活用: わずかな隙間がある場合は、車載ジャッキが非常に有効な救出ツールになります。
転倒家具からの救出:重量を減らして動かす
たんすや冷蔵庫などの大型家具は、持ち上げる前に「軽くすること」が重要です。
- 手順:
- 声かけ: 負傷者に声をかけ続けて安心させ、周囲に助けを求める。
- 軽量化: 中身(衣類・食品・棚板)をすべて取り出し、重量を減らす。
- 解体・切断: 持ち上がらない場合は、一部を破壊するか、のこぎりで切断して空間を作る。
- 注意点: 持ち上げた後は、必ず角材や丈夫な箱などで支えを作り、再転倒を確実に防止してください。
車両からの救出:二次被害の防止と空間確保
事故車両からの救出は、火災とガラス破片への対策が最優先です。
- 火災への警戒:
- 消火器を準備する。
- 路面の油漏れを確認し、火気厳禁を徹底する。
- ガラスの破り方:
- 負傷者の保護: シーツや毛布をかけ、破片が当たらないようにガードする。
- 場所の選択: フロントガラスは強固なため避け、側面または後方のガラスを割る。
- 空間の作り方: ドアが開く場合は、シートを後ろへスライドさせるか、背もたれを倒して救出スペースを最大化します。
応急手当:命をつなぐための初期対応
救急車が到着するまでの数分間、適切な応急手当を行えるかどうかが、傷病者の社会復帰や生存率を大きく左右します。
人が倒れていた時の基本ステップ
- 周囲の安全確認: 二次被害を防ぐため、自分と倒れている人の安全を最優先する。
- 止血の確認: 大出血がある場合は、直ちに圧迫止血を行う。
- 意識の確認: 呼びかけに反応があるか確認する。
- 応援要請: 意識がない場合は周囲に助けを求め、119番通報とAEDの手配を依頼する。
- 気道の確保: 呼吸を助けるため、口内の異物除去や、呼吸しやすい姿勢(回復体位など)をとらせる。
心肺蘇生法(CPR)とAED
心停止から1分経つごとに、救命率は約10%ずつ低下します。迅速な胸骨圧迫が重要です。
- 手順: 反応がなく、呼吸が「ない」または「普段通りでない」場合はすぐに開始。
- 胸骨圧迫のポイント:
- 位置: 胸の真ん中(胸骨の下半分)
- 強さ: 胸が5〜6cm沈むまで強く
- テンポ: 1分間に100〜120回(アンパンマンのマーチなどのリズム)
- 絶え間なく: 救急隊に引き継ぐまで、可能な限り中断しない。
- 子どもの場合: 胸骨圧迫に加え、人工呼吸を組み合わせることが推奨されます。
| 症状 | 応急手当のポイント | 注意事項 |
| 出血 | 清潔な布で傷口を強く押さえる(直接圧迫止血)。 | 感染防止のため、あればビニール手袋を着用。 |
| 骨折 | 副子(添え木)で固定する。ダンボール、傘、枝などで代用可。 | 折れた部位だけでなく、上下の関節まで固定。 |
| 熱中症 | 涼しい場所へ移動。脇の下や太ももの付け根を冷やす。 | 意識障害がある場合は、無理に水を飲ませない。 |
| やけど | すぐに流水で冷やす。衣服は脱がさず上から冷やす。 | 水ぶくれは感染症の原因になるため、破らない。 |
傷病者の搬送
無理な移動は症状を悪化させるため、安全な場所であれば動かさずに救急隊を待ちます。移動が必要な場合は、以下の方法を検討してください。
- 簡易担架: 毛布と2本の丈夫な棒(物干し竿など)で作成。
- 引きずり搬送: 毛布やシーツの上に寝かせ、頭の方から静かに引く。
- 徒手搬送: 複数人で協力し、傷病者の体(特に頭部と背骨)を水平に保つ。
実践的な防災訓練(実技訓練)
知識を「動ける力」に変えるためには、体験型の訓練が不可欠です。目的に合わせた代表的な訓練を紹介します。
火災・避難の基礎訓練
- 煙体験・初期消火訓練
- 煙体験: 視界ゼロの恐怖を体験し、姿勢を低く保つ避難法を学びます。
- 消火訓練: 消火器の使い方はもちろん、バケツリレーやスタンドパイプ、可搬ポンプなど、地域の設備に応じた操作を習得します。
- 避難誘導訓練
- 実際の経路を歩き、倒壊リスクや危険箇所を特定します。特に「避難行動要支援者」をどう誘導するか、具体的な手順をシミュレーションします。
救出・救護の専門訓練
- 救助訓練(バール・のこぎり等)
- 倒壊建物を想定し、資機材を使ってマネキンを救出します。米国発のCERT訓練(地域災害対応チーム)の考え方を取り入れた実践的なものも増えています。
- 応急救護訓練
- 心肺蘇生、AED、止血、骨折固定などを学びます。自治体が開催する「救命講習(普通・上級)」に参加し、修了証を取得することが推奨されます。
特定のシチュエーションへの備え
- 非常電源切り替え訓練
- 停電時、避難所や職場でスムーズに予備電源(発電機等)へ切り替えられるか。暗闇の中での操作確認が重要です。
- 帰宅困難者対応訓練
- 交通停止時を想定し、実際に徒歩での帰宅ルートや必要な装備(地図、歩きやすい靴など)を確認します。
- シェイクアウト訓練(一斉安全確保)
- 地震発生の合図で、場所を問わず一斉に「3つの基本行動」をとる訓練です。
- DROP!(まず低く!)
- COVER!(頭を守り!)
- HOLD ON!(動かない!)
まとめ
大規模災害では、倒壊家屋からの救出や応急手当など、発災直後の対応が被害の拡大を防ぐ重要な要素となる。消防や医療機関の到着までの間、地域住民が協力して初期対応を行うことが、多くの命を守ることにつながる。
そのためには、救出方法や応急手当の基本を理解するだけでなく、防災訓練を通じて実際に行動できる力を身につけておくことが重要である。平常時からの備えと訓練が、災害時の安全で迅速な対応を支える基盤となる。
※本ページは、防災・減災に関する基礎的な情報を、一般の方にも分かりやすく整理したものです。
災害時の判断や行動は、地域や状況によって異なるため、必ず公的機関からの最新情報を優先してください
※本ページは『防災士教本(2025年度版)』(日本防災士機構)を参考に再構成しています。
