災害対策基本法
災害対策基本法の概要
日本の防災・危機管理では、国、都道府県、市町村などの行政が、それぞれの役割を分担して対応する仕組みが取られている。
第二次世界大戦後の日本では、国土の復旧が十分に進んでおらず、堤防や水門などの防災施設の整備も不十分な状況にあった。そのため大規模な台風災害が相次ぎ、多くの犠牲者が発生した。
主な例として、次のような災害がある。
・枕崎台風(1945年)3,756人
・カスリーン台風(1947年)1,930人
・洞爺丸台風(1954年)1,761人
・伊勢湾台風(1959年)5,098人
こうした被害の経験から、災害対策を体系的に進めるための法律の必要性が認識されるようになった。そして伊勢湾台風を契機として、1961年11月に災害対策基本法が制定された。
この法律では、国や地方公共団体の責務、組織体制、防災計画の策定、財政措置など、日本の防災体制の基本的な枠組みが定められている。また、市町村長が発令する避難情報についても、この法律を根拠として制度が整備されている(避難勧告は現在廃止)。
災害対策基本法は、日本の総合的な防災対策の基本法であり、制度の骨格は制定当初から維持されている。ただし、阪神・淡路大震災や東日本大震災などの経験を踏まえ、必要に応じて法改正が重ねられてきた。大規模災害が制度改正の契機となることが多い点も特徴である。
なお、この法律における「災害」には、自然災害だけでなく、鉄道・航空・船舶事故や市街地火災などの大規模な人為的事故も含まれる。2013年の改正では、自然災害の例示として地震や火山災害に加え、「がけ崩れ」「土石流」「地すべり」が明記された。
主な法改正
① 1995年改正(阪神・淡路大震災)
阪神・淡路大震災の教訓を踏まえ、災害対応体制の強化が行われた。
【政府】
・非常災害対策本部、緊急災害対策本部の設置要件の緩和
・緊急災害対策本部の構成員の強化
・本部長権限の強化
・現地災害対策本部の法定化
【地方公共団体】
・市町村長が都道府県知事に対して自衛隊派遣を要請できる制度
・市町村長から防衛庁長官等への災害状況通知
【交通規制】
・区域を指定した交通規制
・運転者のとるべき措置の規定
・警察による緊急車両通行確保の措置
【防災配慮】
・自主防災組織の育成
・ボランティア活動環境の整備
・高齢者や障害者など要配慮者への配慮
② 2005年改正(新潟・福井豪雨)
高齢者などの避難対策を強化するため、「避難準備情報」(現在の高齢者等避難)の制度の根拠が整備された。
③ 2012~2013年改正(東日本大震災)
東日本大震災を受け、防災制度の大きな見直しが行われた。
主な内容は次のとおりである。
・国や都道府県による災害対応の代行権限の拡大
・避難や救助など被災者保護制度の強化
・被災者支援制度の法定化
■ 2012年改正(第1弾:即応体制の整備)
- 1. 広域連携の強化 自治体間の応援業務を、消防や救護だけでなく「避難所運営支援」などの応急対策全般に拡大。国や都道府県による調整機能を拡充しました。
- 2. 被災者保護の改善 国が地方からの要請を待たずに物資を供給する「プッシュ型支援」の仕組みや、自治体の枠を超えた「広域避難」の調整規定を創設しました。
- 3. 平時からの備え 住民の責務として「災害教訓の伝承」を明記。防災教育の努力義務化や、地域防災会議に自主防災組織等の意見を反映させる体制を整えました。
■ 2013年改正(第2弾:避難と保護の具体化)
- 1. 国の代行制度と迅速な対応 自治体の機能が著しく低下した場合、国が救助や障害物除去を代行する仕組みを創設。避難所として使用する施設などの規制について、適用除外措置を整備しました。
- 2. 確実な避難の確保 「緊急時の避難場所」と「一定期間滞在する避難所」を区別して指定する制度を導入。高齢者などの「避難行動要援護者名簿」の作成を義務化しました。
- 3. 被災者支援の仕組み 市町村長による「罹災証明書」の遅滞なき交付や、支援情報を一元化する「被災者台帳」の作成制度を創設しました。
- 4. 新たな基本理念 基本理念に「減災」の考え方を明記。住民が主体となって作成する「地区防災計画」制度を新設し、官民連携を促進しました。
(出典:内閣府資料を基に作成)
④ 2014年以降の改正
東日本大震災後も、災害対応の実情に合わせて制度の見直しが続けられている。
主な内容は次のとおりである。
・放置車両などの移動措置の強化(2014年)
・災害廃棄物処理のための国の代行制度の整備(2015年)
⑤ 2021年改正
2021年5月に施行された改正では、個人の避難行動に直結する大きな見直しが行われました。
- 特定災害対策本部の新設 非常災害に至らない規模であっても、甚大な被害が想定される場合には、防災担当大臣を本部長とする「特定災害対策本部」を設置し、国が早期に情報収集や対応準備を行えるようになりました。
- 避難情報制度の一本化 これまで混同されやすかった「避難勧告」と「避難指示」を、「避難指示」に一本化。警戒レベル4の段階で、危険な場所から全員が必ず避難すべきタイミングであることが明確化されました。
- 現在進行中の法改正(第217回国会) 現在、災害対策基本法および災害救助法のさらなる改正案が審議されています。これには、近年の災害対応の実情を踏まえた被災者支援の迅速化や、救助体制の効率化などが盛り込まれる予定です。
【重要】現在の避難情報と警戒レベルの対応 ※以下の表を確認し、警戒レベル4までに必ず避難を完了させてください。
災害対策基本法の枠組み
災害対策基本法では、防災対策を災害予防・応急対応・復旧復興の三つの段階に整理し、それぞれの段階で行政が実施すべき対策を定めている。
第1フェーズ(災害予防)
・防災基本計画の策定
・指定行政機関、指定公共機関の指定
・地域防災計画の作成
・防災訓練
・物資備蓄
第2フェーズ(災害応急対応)
・警報の発令
・消防、警察、海上保安機関の出動
・住民への避難指示
・警戒区域の設定
・応急措置
第3フェーズ(復旧・復興)
・災害復旧事業
・国の補助や負担
・激甚災害指定による特別支援
・被災事業者への支援
国や地方公共団体の責務
災害対策基本法では、国・都道府県・市町村が、それぞれの役割に応じて防災対策を分担することが定められている。
災害対応において、地域の状況を最も把握している行政機関は市町村である。このため、防災対策の第一次的責任は市町村が担うとされている。
この考え方は、「防災における市町村中心の原則」と呼ばれている。
防災・危機管理に関する組織
防災行政では、平常時と災害時で組織体制が異なる。
平常時には防災会議が設置され、災害発生時には災害対策本部が設置される。
(1)防災会議
中央防災会議は、内閣総理大臣を会長とし、防災担当大臣や各大臣、指定公共機関の代表、学識経験者などで構成される。
主な役割は次のとおりである。
・防災基本計画の作成と推進
・非常災害時の計画作成
・防災に関する重要事項の審議
・内閣総理大臣への意見具申
また、都道府県や市町村にも地方防災会議が設置され、地域防災計画の作成や見直しが行われる。
(2)災害対策本部
災害が発生した場合、または発生のおそれがある場合には、市町村長や都道府県知事が災害対策本部を設置する。
さらに、広域的で大規模な災害の場合には、国に
・非常災害対策本部
・緊急災害対策本部
が設置される。
東日本大震災では、緊急災害対策本部が設置された。
2021年の法改正により、災害発生前の段階でも国が対策本部を設置し、情報収集や対応準備を進めることが可能となった。
防災計画
(1)防災基本計画
防災基本計画は、中央防災会議が作成する、日本の防災分野で最も上位に位置する計画である。
この計画を基に、各省庁や公共機関は防災業務計画を、地方自治体は地域防災計画を作成する。
(2)防災業務計画
日本銀行、日本赤十字社、NHK、通信会社、電力会社、ガス会社、JRなどの公益性の高い機関は、指定公共機関として防災業務計画を作成する義務がある。
また、防災に関係する国の省庁や独立行政法人などは、指定行政機関として、それぞれの分野で防災対策を実施する。
(3)地域防災計画
地域防災計画は、都道府県や市町村が地域の実情に応じて作成する防災計画である。
地域の防災機関が実施する具体的な対策が定められる。
(4)地区防災計画
東日本大震災の教訓から、自助・共助・公助の連携の重要性が再認識された。
これを受けて、2013年の法改正により、地域住民や事業者が主体となって作成する地区防災計画制度が創設された(2014年施行)。
応急危険度判定と罹災証明書
災害後の行政対応として重要なのが、建物の安全確認と被害認定である。代表的な制度として、応急危険度判定と罹災証明書の発行がある。
(1)応急危険度判定
地震などで被害を受けた建物について、余震による倒壊などの危険性を判定する制度である。
判定結果は、次の3段階で表示される。
・危険(赤)
・要注意(黄)
・調査済(緑)
判定は登録された応急危険度判定士(建築士など)が行う。なお、この判定には法的拘束力はない。
(2)罹災証明書
① 罹災証明書とは
罹災証明書は、市町村が被災状況を調査し、その結果を証明する書類である。被災者支援制度を利用する際の基礎資料となる。
2013年の法改正により、罹災証明書の発行は法律上の制度として位置付けられた。
② 罹災証明書の発行
罹災証明書は、支援金、義援金、税の減免などの各種支援を受ける際に必要となる。被害調査の後、自治体に申請することで発行される。
③ 被害調査
被害調査は自治体職員が行い、建物の被害の程度を判定する。
判定に不服がある場合には、建物内部を確認する2次調査を申請することができる。
④ 被害の認定
主な被害区分は次のとおりである。
・全壊
・大規模半壊
・半壊
・全焼
・半焼
・床上浸水
・床下浸水
被害認定によって受けられる支援内容が変わるため、結果の確認が重要である。
まとめ
災害対策基本法は、日本の防災・危機管理の基本的な枠組みを定める法律である。
この法律では、国・都道府県・市町村の役割分担、防災計画の体系、災害時の組織体制などが定められている。
防災対策は、災害予防、応急対応、復旧・復興の三つの段階に整理されており、それぞれの段階で行政が実施すべき対策が制度化されている。また、防災においては、市町村が地域の実情を踏まえて対応する「市町村中心の原則」が基本とされている。
さらに、応急危険度判定や罹災証明書など、災害後の生活再建に関わる制度もこの防災体制の中で重要な役割を果たしている。こうした制度は、大規模災害の教訓を踏まえながら、現在も見直しと改善が続けられている。
※本ページは、防災・減災に関する基礎的な情報を、一般の方にも分かりやすく整理したものです。
災害時の判断や行動は、地域や状況によって異なるため、必ず公的機関からの最新情報を優先してください
※本ページは『防災士教本(2025年度版)』(日本防災士機構)を参考に再構成しています。
