平常時の防災対策
国や地方公共団体などの行政機関では、災害に備え、平常時からさまざまな防災対策が行われている。これらの取り組みは、計画の整備、施設や資機材の準備、住民への啓発など多くの分野に及ぶ。主な内容は次のとおりである。
1 地域防災計画の作成
地域防災計画は、災害対策基本法に基づき、地方公共団体が防災会議に諮って作成する計画である。計画は災害の種類ごとに、震災対策編や風水害対策編などに分けて構成されている。
また、防災対応サイクルの考え方に基づき、計画は主に次の内容で構成されている。
予防計画
応急対策計画
復旧・復興計画
さらに、想定される地震が発生した場合の被害を予測し、その結果を計画に反映させることも重要である。また、河川の氾濫による浸水危険区域を示した地図や、火山噴火時に火砕流などが到達する範囲を示したハザードマップを作成し、地域防災計画に反映させることが望ましい。
2 避難場所の指定
都市大火、津波、風水害などを想定し、災害の種類ごとに安全性を科学的に確認したうえで、指定緊急避難場所や指定避難所が選定・指定されている。
3 備蓄
災害発生直後は物資の調達が困難になるため、地域の実情に応じて次のような物資の備蓄が進められている。
救出用資機材
毛布
肌着
敷物
飲料水
仮設トイレ
乾パンなどの非常食
副食品
医薬品
トイレットペーパー
さらし
生理用品
4 無線設備の整備
災害時の情報収集や情報伝達を確実に行うため、無線設備の整備が進められている。
市町村レベルの防災無線には、主に次の3種類がある。
車載などの移動系無線
同報系無線
地域防災系無線(複数の機関が同時に交信できる無線)
2023年度末時点における全国の整備率は、同報系無線が約74%、移動系無線が約48.1%となっている。また、東日本大震災後に実施された調査では、大津波警報を知った手段として防災無線が52%と最も多く、テレビ(7%)やラジオ(17%)を大きく上回った。
この結果から、防災無線による情報伝達の重要性が改めて認識されている。
さらに、全国瞬時警報システム(Jアラート)は、弾道ミサイル情報、緊急地震速報、大津波警報など、時間的余裕のない事態に関する情報を住民へ瞬時に伝える仕組みである。携帯電話の緊急速報メールや市町村の防災行政無線などを通じて、国から住民へ直接情報が伝達される。
5 広報・啓発
災害の種類や発生メカニズム、家具の転倒防止対策、家庭や企業における備蓄の重要性などについて、広報資料の配布や防災講演会を通じて、市民への防災知識の普及が行われている。
6 防災訓練の実施
9月1日の「防災の日」には、市民や防災関係機関が参加する大規模な防災訓練が実施されている。また、地域ごとに消火訓練や炊き出し訓練などが行われている。さらに、実地訓練に加え、課題解決を目的とした図上演習など、新しい訓練手法も導入されている。
7 自主防災組織の結成と育成
地方公共団体は、地域住民による自主防災組織の結成を奨励している。
すでに結成された組織に対しては、防災訓練などを通じて実技指導が行われている。
8 協定の締結や条例制定
災害時の広域的な支援体制を確保するため、地方公共団体同士で広域応援協定を締結する動きが全国で広がっている。また、地域内の重要施設を持つ事業者などと「防災協定(安全協定)」を結ぶ自治体も増えている。
例えば、トラック協会や建設業界と協定を結び、災害時の応急対応を支援してもらう仕組みがある。さらに、住民・企業・行政の役割を明確にするため、防災基本条例を制定する自治体もある。なお、協定は契約に近い性質を持つものであり、条例のような強い規範力を持つものではない。
9 耐震診断・耐震改修の推進
地方自治体によっては、建築物の耐震診断や耐震改修の推進が行われている。
また、危険なブロック塀を生け垣へ変更する取り組みなども進められている。
国土強靱化アクションプラン
災害に強い国土をつくるため、災害に脆弱な国土構造をより強く、しなやかなものへ変えていくという考え方から、2014年6月に国土強靱化基本法が成立・施行された。
この法律の特徴は、公共事業の実施だけでなく、毎年度施策の進捗を評価し、その結果を踏まえて取り組むべき方針を「アクションプラン」としてまとめる点にある。
進捗管理では、重要業績指標(KPI)などの具体的な数値目標を設定し、施策の進み具合を可能な限り定量的に評価する仕組みが採用されている。
また、各プログラムの脆弱性評価を行い、その結果を踏まえて推進計画(推進方針とKPI目標値)および主要施策が定められている。
なお、2023年7月には国土強靱化基本計画の見直しが行われ、重点化すべきプログラムが改定された。
行政の災害時受援体制
1 災害時受援体制の重要性
大規模災害が発生すると、被災地域の自治体だけでは十分に対応できない場合が多い。阪神・淡路大震災以降、この問題は明確に認識されるようになった。さらに東日本大震災では、多くの自治体職員が犠牲となり、庁舎自体が被災するなど、自治体機能が大きく低下する事例も見られた。
そのため、被災自治体が域外からの支援を迅速に受け入れ、効果的に活用する「受援体制」の整備が重要な課題となっている。この課題を踏まえ、2016年の熊本地震の教訓をもとに、2017年3月31日、国は「地方公共団体のための災害時受援体制に関するガイドライン」を策定・公表した。
2 受援体制ガイドラインの概要
このガイドラインでは、災害時の応援・受援体制を明確にするため、被災自治体と応援自治体の役割分担が整理されている。
具体的には、次の体制が想定されている。
被災都道府県:応援・受援本部を設置
被災市町村:受援班または受援担当を設置
応援する都道府県:応援本部を設置
応援する市町村:応援班または応援担当を設置
また、応援の実施にあたっては、次の点に留意する必要がある。
災害対応に必要な資源を把握し、必要量を見積もる
人的・物的資源の流れと役割分担を理解する
資源管理に必要な情報や帳票を整備する
応援・受援の対象となる業務内容を明確にする
業務支援だけでなく「マネジメント支援」も対象とする
さらに、平常時の取り組みとして、次のような準備が求められている。
応援・受援計画の策定
必要な人的・物的資源の整理
研修や図上訓練の実施
自治体間で顔の見える関係づくり
なお、海外からの支援については、国からの照会に基づき、必要に応じて国へ支援要請を行うこととされている。
3 被災市区町村応援職員確保システム
大規模災害では、避難所運営や罹災証明書の発行など、被災者支援のための業務が急増する。しかし、被災自治体の職員だけでは人員が不足することが多い。
このため総務省は、2018年3月に「被災市区町村応援職員確保システム」を構築した。この仕組みは、全国の地方公共団体の人的資源を活用し、被災市町村へ応援職員を派遣する制度である。被災都道府県内の自治体だけでは対応できない場合には、被災地域外の自治体から職員を派遣することができる。
支援の方法として、「対口支援方式」が採用されている。
これは、都道府県または指定都市がカウンターパートとなり、原則として1対1で被災市区町村を担当し、応援職員を派遣する方式である。
また、都道府県は原則として、指定都市を除く区域内の市区町村と連携しながら、応援職員の派遣を行うこととされている。
まとめ
行政は、地域防災計画の整備や避難場所の指定、備蓄、情報伝達体制の整備などを通じて、平常時から災害への備えを進めている。さらに、国土強靱化の取り組みや自治体間の受援体制の整備により、大規模災害に対する対応力の強化も図られている。こうした取り組みは、災害発生時の被害を軽減し、迅速な対応を可能にする基盤となるものである。
※本ページは、防災・減災に関する基礎的な情報を、一般の方にも分かりやすく整理したものです。
災害時の判断や行動は、地域や状況によって異なるため、必ず公的機関からの最新情報を優先してください
※本ページは『防災士教本(2025年度版)』(日本防災士機構)を参考に再構成しています。
