帰宅困難者対策と備え

帰宅困難者対策

1 帰宅困難者の概念

災害によって鉄道やバスなどの公共交通機関が停止すると、外出先から自宅へ戻れない人が生じる。こうした人々は「帰宅困難者」と呼ばれる。

首都直下地震の被害想定では、首都圏1都4県で約640万~800万人、東京都内だけでも約453万人が帰宅困難者になる可能性がある。外出者が同時に帰宅を始めると道路に人が集中し、混乱が生じ、救助活動や緊急車両の通行に影響を及ぼす。都市部では外出人口が多いため、この問題は特に大きくなりやすい。

2011年の東日本大震災では、首都圏で約515万人の帰宅困難者が発生した。多くの人が徒歩で帰宅するか、勤務先や駅周辺、自治体施設などで一夜を過ごした。東京都内では、3月12日午前4時の時点で約9万4,000人が都立施設や区市町村施設を利用した。

2 駅前滞留者への対応

大地震が発生すると交通機関が停止し、ターミナル駅周辺に多数の人が滞留することがある。人が集中すると、混乱や事故が発生するおそれがある。

発災直後は行政が救命救助活動を優先するため、駅前の滞留者に対して十分な支援が行えない場合もある。そのため東京都では、区市町村と連携し、駅周辺の事業者などで構成される協議会を設置している。協議会では、駅ごとの混乱防止ルールの作成などを進め、滞留者対策を進めている。

3 徒歩帰宅者への支援

災害発生直後の約3日間は救助・救命活動が優先されるため、徒歩帰宅者への支援は、概ね4日目以降に本格化すると考えられている。帰宅経路の沿道では、情報提供や水、トイレ、休息場所などを提供する体制が必要である。

このため自治体では、コンビニエンスストアやガソリンスタンドなどの事業者と協定を結び、「災害時帰宅支援ステーション」として情報、水、トイレなどを提供できる体制を整備している。東京都では、都立高校も支援施設として指定されている。

🏪 災害時帰宅支援ステーションの役割
コンビニ、ガソリンスタンド、飲食店などの
「支援ステーションステッカー」が目印
  • 水道水の提供: 飲料水の補給が可能
  • トイレの利用: 衛生環境の確保
  • 情報の提供: ラジオや地図等による状況確認
  • 休憩場所: 徒歩帰宅中の一時休息

深刻な「トイレ不足」の問題

災害発生直後のトイレ不足は、命に関わる大きな課題です。冬の平日正午に首都圏で大地震が発生した場合、発生からわずか2時間後には、約81万7,000人がトイレを利用できない状況になると試算されています。

道路や鉄道が止まるだけでなく、下水道の損傷により既存のトイレが使えなくなるため、企業による簡易トイレの備蓄や、個人で携帯トイレを持ち歩くなどの準備が極めて重要です。

また、帰宅支援マップや災害情報の提供手段も整備されている。高齢者や障害者など、徒歩帰宅が難しい人に対しては、バスや船舶など代替輸送手段の活用も検討されているが、すべての人に迅速に対応することは難しい。

4 東京都帰宅困難者対策条例

🚶 帰宅困難者になった時の「3原則」
① むやみに動かない
発災後3日間は救助活動が優先されます。一斉帰宅は渋滞を招き、救命の妨げになります。
② 安全な場所に留まる
勤務先や学校、一時滞在施設など、あらかじめ決めた安全な場所で待機します。
③ 正しい情報を得る
SNSのデマに惑わされず、自治体や交通機関の公式発表を確認します。

首都直下地震などによる帰宅困難者への対策を強化するため、東京都は2012年3月に「東京都帰宅困難者対策条例」を制定し、2013年4月から施行した。

この条例では、事業者や都民の役割を明確にし、次のような取り組みを定めている。

・むやみに移動を開始しない「一斉帰宅の抑制」を基本原則とする
・事業者に対し、従業員の3日分の食料などの備蓄を努力義務として求める
・駅や大型施設、学校における利用者や児童・生徒の保護を求める
・安否確認や災害情報提供の体制を整備する
・都立施設などを一時滞在施設として指定する
・代替輸送手段や災害時帰宅支援ステーションを確保する

5 一時滞在施設の確保

公共交通機関が長時間停止すると多くの帰宅困難者が発生するため、一時的に滞在できる施設の確保が重要となる。首都直下地震帰宅困難者等対策連絡調整会議は、2015年に「一時滞在施設の確保及び運営のガイドライン」を改定した。

施設では、水や食料、毛布などを備蓄することが求められる。改定では、施設内での事故や体調悪化について、故意や重大な過失がない限り施設管理者の責任を限定することなどが示され、企業の協力を得やすくすることが図られた。

首都直下地震が発生した場合、東京都内では約92万人が滞在場所を確保できないと想定されている。2021年時点で確保されている一時滞在施設は約44万5,000人分であり、さらなる施設確保が課題となっている。


孤立集落の発生と対策

地震によって道路が寸断されると、集落が外部と遮断され、孤立することがある。2004年の新潟県中越地震では、小千谷市や旧山古志村などで道路が崩壊し、7市町村61地区、1,938世帯が孤立した。崩壊土砂が河川をせき止める河道閉塞(天然ダム)も発生し、水没の危険が生じた。

2024年の令和6年能登半島地震でも、輪島市や珠洲市などで多数の孤立集落が発生し、地域によっては3週間から1か月以上、孤立状態が続いた。

政府はこの地震を受け、全国の孤立集落を再調査し、飲料水や食料の備蓄強化、ドローンによる物資輸送、衛星インターネットによる通信確保などの対策を検討している。内閣府の調査では全国で約1万9,000の集落が把握されており、孤立集落への備えは、今後の防災対策の重要な課題とされている。

※本ページは、防災・減災に関する基礎的な情報を、一般の方にも分かりやすく整理したものです。
災害時の判断や行動は、地域や状況によって異なるため、必ず公的機関からの最新情報を優先してください

※本ページは『防災士教本(2025年度版)』(日本防災士機構)を参考に再構成しています。

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