自然災害と危機管理
危機の多様性
「危機管理」という言葉が、日本で自然災害への対応と結びついて広く使われるようになったのは、1995年の阪神・淡路大震災以降とされている。当時、政府の初動対応について「危機管理が十分に機能していなかった」とする批判が相次いだ。
それ以前、この言葉は主に国家レベルの緊急事態に対して政府首脳が対応するという意味で用いられることが多かった。しかし、阪神・淡路大震災を契機にその概念は拡大し、社会に重大な被害をもたらすさまざまな事象への対応を含む広い意味で使われるようになった。
現在では、「危機」という概念には自然災害だけでなく、人為的事故や社会的問題なども含まれると考えられている。危機管理とは、こうした多様な事象に対して被害を抑え、社会機能を維持するための対応を指す。
危機として想定される主な事象
危機管理の対象となる事象には多くの種類があり、その内容は自然現象から社会的問題まで幅広い。ここでは代表的なものを整理する。
(1)自然災害
自然災害と聞くと地震を思い浮かべる人が多いが、日本では毎年のように大きな被害をもたらしているのは水害である。
日本は国土の約7割が山地であり、年間降水量も世界平均の約2倍とされている。この地形と気候の条件により、豪雨による洪水や土砂災害が発生しやすい環境にある。
① 東日本大震災
2011年の東日本大震災は、従来の想定を大きく超える災害として発生した。特に次の点が特徴として挙げられる。
・日本では東海地震、南海地震、東南海地震などの発生が想定されていたが、東日本大震災はこれらの想定には含まれていなかった。なお、1995年の阪神・淡路大震災も同様に想定外の地震であった。
・地震の規模はマグニチュード9.0という超巨大地震であった。参考として、1923年の関東大震災はM7.9、1995年の阪神・淡路大震災はM7.3である。なお、今後発生が想定されている南海トラフ巨大地震では、最大クラスでM9.1程度と想定されている。
・犠牲者の9割以上が津波による水死であった。被害の特徴からみると、東日本大震災は大規模な津波災害としての側面が極めて強かったといえる。
阪神・淡路大震災では家屋倒壊による圧死が多く、関東大震災では火災による焼死が多かった。災害の種類によって被害の様相が大きく異なる点は重要な特徴である。
② 火山災害
火山噴火も日本にとって重要な自然災害の一つである。
世界には約1500の活火山が存在するとされるが、日本にはそのうち111の活火山が分布している。富士山や浅間山などの著名な火山に加え、伊豆諸島など東京都の区域内にも21の活火山が存在している。
火山噴火は広い範囲に影響を及ぼす可能性があり、降灰が遠方まで到達することもある。2000年の三宅島噴火では、新潟県でも降灰が観測された。
(2)その他の危機事象
自然災害以外にも、社会に大きな影響を与える事象は数多く存在する。
① 大事故
災害対策基本法では、自然災害に続く災害として「大規模な火災や爆発」などが挙げられている。
日本では古くから火災が重大な災害となってきた。1657年に江戸で発生した明暦の大火では、市街地の約8割が焼失したとされ、1666年のロンドン大火と並ぶ大規模火災として知られている。
当時の江戸では木造建築が多く、火災が拡大しやすい都市構造であった。
現代では、航空機・鉄道・船舶などの輸送手段が大型化し、多数の人を一度に運ぶようになっている。そのため、事故が発生した場合の被害規模も大きくなる傾向があり、安全管理の重要性が一層高まっている。
② 事件
重大事件が発生した場合、自治体は住民の安全確保のため、避難誘導や救助活動などの対応を行う必要がある。
このような事態では、通常の行政運営とは異なる迅速な意思決定や対応体制が求められることが多い。そのため現在では、犯罪やテロなども地域における危機管理の対象として位置付けられている。
さらに、企業や行政の不祥事、コンプライアンス違反なども社会的影響が大きいことから、広い意味で危機管理の対象とされている。
③ 感染症
感染症は、他の危機とは異なる特徴を持つ。行政の対応としては、日常的な監視体制や早期発見、隔離、水際対策などが重要となる。
近年では、O-157、鳥インフルエンザ、BSE、豚熱など、従来の食中毒対策とは異なる対応を必要とする感染症問題が増加している。
さらに2020年に流行した新型コロナウイルス感染症では、社会生活そのものが大きく変化した。政府は同年4月7日に初めて緊急事態宣言を発出し、その後、全国に対象を拡大した。
この影響により、災害時の避難所運営においても「密集・密接・密閉」を避けるなど、新たな対応が求められるようになった。
④ 戦争・テロ(国民保護)
近年の国際情勢を踏まえると、戦争やテロも決して遠い国の出来事とは言えない。
2003年には武力攻撃事態対処法が成立し、国家的危機に対する対応体制が整備された。さらに2004年には国民保護法が制定され、武力攻撃などの際に国民を保護するための制度が整えられた。
この法律では、国が警報を発令し、都道府県知事が避難指示や救援を実施し、市町村が住民への伝達や避難誘導を行う仕組みとなっている。
また、弾道ミサイル発射などの緊急事態に対応するため、衛星通信を利用した**Jアラート(全国瞬時警報システム)**が整備され、総務省消防庁によって運用されている。近年はミサイル発射事案の増加を受け、警報伝達の精度向上も進められている。
まとめ
危機管理は、もともと国家的な緊急事態への対応を指す言葉であったが、阪神・淡路大震災を契機として、その対象は自然災害を含む社会全体の危機へと広がった。
現在では、地震や水害、火山災害といった自然災害に加え、大事故、事件、感染症、戦争やテロなど、さまざまな事象が危機管理の対象とされている。これらの危機は性質や発生の仕方が異なるため、それぞれに応じた対策や対応体制を整えることが重要である。
社会の安全を守るためには、行政だけでなく、地域や個人も含めて危機に備える意識を持ち、多様な事象に対応できる体制を整えていくことが求められている。
※本ページは、防災・減災に関する基礎的な情報を、一般の方にも分かりやすく整理したものです。
災害時の判断や行動は、地域や状況によって異なるため、必ず公的機関からの最新情報を優先してください
※本ページは『防災士教本(2025年度版)』(日本防災士機構)を参考に再構成しています。
