被害想定
1 被害想定とは
被害想定とは、地震などの災害が発生した場合に考えられる被害規模を、過去の災害事例や研究成果に基づいて推計したものである。人的被害や建物被害については、被害推定式やシミュレーションを用いて算出される。
想定対象の災害には、過去に発生した地震の再来、活断層による地震、海溝型地震など将来の発生が予測される地震が含まれる。
被害想定は、防災対策を検討するための基礎資料として作成される。地方自治体が地域防災計画を策定する際に利用されるほか、住民に災害リスクを伝えるハザードマップ作成にも活用される。
2 被害想定の項目
被害想定では、人的被害、建物被害、火災、ライフライン被害など、さまざまな項目について推計が行われる。
被害規模は、季節や時間帯、気象条件などの設定によって変化する。例えば地震火災では、冬(暖房使用)と夏、夕方(調理の時間帯)、早朝(起床前)などの条件により出火件数が異なる。
そのため、被害想定ではこうした条件を設定したうえで推計を行う。前提条件が結果に大きく影響する点が、被害想定の特徴といえる。
ただし、すべての被害を正確に数値化できるわけではない。例えば次のような項目は定量的推計が難しく、定性的な評価にとどまることがある。
・高層ビルの詳細な被害
・パニック発生時の人的被害
・PTSDなどの心理的影響
被害想定の例として、東京都が公表している「首都直下地震などによる東京の被害想定」(2022年5月)の一部を表2に示す。
3 被害想定を活用する際の留意点
被害想定は、一定の前提条件を設定して作成されている。例えば、
・想定する地震の位置
・地震の規模
・発生する季節
・発生する時間帯 などである。
前提条件が変われば、想定される被害規模も大きく変化する。そのため、被害想定を確認する際には、どのような前提で作成されたかを理解しておくことが重要である。また、研究の進展により、防災対策の効果も明らかになってきている。例えば南海トラフ地震では、地震発生後すぐに避難することで、津波による犠牲者を大幅に減らせることが示されている。
一方、被害想定の数値だけを見て「自分の地域は被害が少ないから安全」と判断するのは危険である。想定外の場所で地震が発生したり、想定を超える規模の災害が起きたりする可能性もあるためである。そのため、被害想定を参考にしつつ、自助・共助の意識を持ち、日頃から災害への備えを進めることが重要である。
ハザードマップ
1 ハザードマップとは
ハザードマップとは、災害が発生した場合に被害が及ぶと想定される区域や、避難に関する情報を地図上に示したものである。
主な目的は次のとおりである。
・平常時の防災意識の向上
・災害時の円滑な避難行動
・人的被害の軽減
近年は自然災害が頻発しており、堤防や防潮堤などのハード対策だけでは被害を防ぎきれない場合もある。そのため、防災情報の伝達や帰宅困難者対策など、ソフト対策の重要性が高まっている。
ハザードマップはその中心的取り組みの一つであり、現在では次の災害を対象に作成されている。
2 ハザードマップの主な種類
(1)洪水ハザードマップ
洪水ハザードマップは、河川の氾濫や堤防決壊による浸水情報と避難情報を示したもので、住民が安全に避難することを目的に作成される。
2005年の水防法改正により、浸水想定区域や避難情報をハザードマップなどで住民に周知することが市町村の義務となった。
国土交通省の「わがまちハザードマップ」(2024年12月現在)によれば、洪水ハザードマップは1498市町村で作成され、インターネット上で公表されている。
洪水ハザードマップには、次の情報が掲載される。
・浸水想定区域
・避難場所
・避難経路
・洪水情報の伝達方法
また、記載内容には共通項目と地域項目があり、地域項目には次の内容が含まれる。
・氾濫流の流速
・湛水時間
・避難時の注意事項
・地下街などの浸水リスク
・過去の洪水の記録
山間部など土砂災害の危険性が高い地域では、土砂災害警戒区域などもあわせて掲載されることがある。
内水ハザードマップ
近年、集中豪雨の増加により、下水道などの排水能力を超えた雨水による内水氾濫の被害が増加している。この為内水氾濫による浸水リスクを示した内水ハザードマップの作成も進められている。
内水ハザードマップは、
・浸水シミュレーション
・地形データの分析
・過去の浸水実績 などをもとに作成される。
国土交通省によれば、388市町村(2024年12月現在)が内水ハザードマップを公表している。
(2)水害リスクマップ
国土交通省では、洪水ハザードマップに加えて、水害リスクマップ(浸水頻度図)を公開している。
これは、
・発生頻度は低いが浸水範囲が広い大規模洪水
・発生頻度は高いが浸水範囲が狭い小規模洪水
など、さまざまな規模の洪水の浸水想定図を重ねて示したものである。この情報は、防災まちづくりや企業の立地選択などへの活用も想定されている。
(3)火山ハザードマップ
火山ハザードマップは、火山が噴火した場合に発生する火山現象の影響範囲を示した地図である。
主な火山現象には次のものがある。
・火砕流
・溶岩流
・火山灰の降灰
作成では、火口の位置や積雪の有無など複数条件を想定するが、すべてを地図に示すと複雑になるため、実際には代表的なケースのみ示されることが多い。また、火山現象は時間の経過とともに段階的に発生する場合もある。そのため、ハザードマップを見る際には地図だけでなく、前提条件や解説も確認することが重要である。
国土交通省の「わがまちハザードマップ」によれば、126市町村(2024年12月現在)で火山ハザードマップが公表されている。
2000年の有珠山噴火では、事前に火山防災マップが配布されていたことにより、犠牲者を出さずに避難できた。また富士山では、2021年にハザードマップが改訂され、それを踏まえた避難計画が2023年に公表されている。
(4)津波ハザードマップ
津波ハザードマップは、津波による浸水が想定される区域や避難情報を示した地図である。
東日本大震災では津波によって甚大な被害が発生した。今後も南海トラフ地震などの発生が想定されており、津波対策の重要性は高まっている。
津波ハザードマップには、主に次の情報が掲載される。
・津波の浸水想定区域
・浸水の深さ
・避難場所
・避難経路
これらの情報は、防災意識の向上や避難行動の促進に役立つ重要な資料となっている。
まとめ
被害想定とハザードマップは、災害への備えを進めるうえで不可欠な資料である。前提条件や作成目的を理解しながら活用することで、自助・共助の意識を高め、人的被害や建物被害の軽減に役立てることができる。災害対策は、数値だけで判断せず、日頃からの備えと情報の確認を組み合わせることが重要である。
※本ページは、防災・減災に関する基礎的な情報を、一般の方にも分かりやすく整理したものです。
災害時の判断や行動は、地域や状況によって異なるため、必ず公的機関からの最新情報を優先してください
※本ページは『防災士教本(2025年度版)』(日本防災士機構)を参考に再構成しています。
