固定電話
(1)災害時における通信設備の被害と対策
通信設備では、これまでの災害経験を踏まえ、耐災性の向上が進められてきました。電気通信事業者の通信ビルは震度7クラスの地震にも耐えられる構造とされ、通信ケーブルが断線した場合でもサービスが途絶しにくいよう、中継伝送路の冗長化などの対策が行われています。また、停電時にも設備を維持できるよう、通信ビルには非常用発電装置やバッテリーが備えられています。
一方で、災害の規模や状況によっては通信サービスに大きな影響が生じることがあります。東日本大震災では、地震の揺れによる通信ビルや電柱などの被害は比較的少なかったものの、その後の津波によって大きな被害が発生しました。
津波で流された瓦礫が通信ビルのドアなどを破壊し、内部の通信設備が損傷する事例もありました。また、小規模な通信施設の中には、建物ごと流されるなどの被害も発生しています。
さらに、広範囲で長時間の停電が発生したことで、非常用発電設備の燃料が不足し、通信設備に電力を供給できなくなる事例も見られました。通信設備の被害は、揺れだけでなく、津波や停電など複数の要因が重なって発生する傾向があります。
また、地震だけでなく、台風や豪雨などの水害でも通信設備が被害を受け、通信サービスに影響が生じる可能性があります。こうした災害に備え、電気通信事業者では、設備の耐災性向上や訓練など、さまざまな対策を平常時から実施しています。
(2)通信量増加による通信サービスへの影響
災害が発生すると、被災地への安否確認や見舞いの電話が短時間に集中し、電話がつながりにくくなることがあります。これを 輻輳(ふくそう) と呼びます。
阪神・淡路大震災では通常時の約50倍、東日本大震災では約9倍の通話が被災地に集中したとされています。携帯電話では、通常時の50〜60倍以上の通信量が発生したと推定されています。
通信ネットワークが輻輳すると、警察・消防・海上保安庁への緊急通報や、防災機関が利用する災害時優先電話などの重要な通信にも影響が及ぶ可能性があります。また、電話がつながらない場合に何度もかけ直す 再呼 が増えると、通信の混雑がさらに悪化することがあります。
このような状況を緩和するため、電気通信事業者では、通信ネットワークの混雑状況に応じて トラヒック規制 を実施することがあります。この規制は主に一般利用者の通話を対象としており、緊急通信は対象外とされています。また、避難所などに設置される災害時用公衆電話や街頭の公衆電話は、基本的に規制の対象外です。
携帯電話・スマートフォン
(1)通信設備とサービスへの影響と対策
携帯電話は、携帯端末と電波を送受信する多数の基地局によって通信が行われています。これらの基地局には、国の基準を上回る耐震対策や耐風対策が施されています。また、交換設備などが設置されている通信ビルでも、固定電話と同様に、耐震・耐火・防水などの対策が行われています。
災害で基地局設備が被害を受けた場合には、移動基地局車や移動電源車を活用し、できるだけ早く通信サービスを復旧させる取り組みが行われます。さらに停電対策として、基地局にはバッテリーが設置されており、規模や設置場所によっては、数時間から1日以上の通信を維持できるよう整備されています。
ただし、災害直後には固定電話と同様に通信が集中し、通話がつながりにくくなる場合があります。このような場合には、緊急通信や重要通信を確保するため、通信事業者が必要に応じて通信の制御や規制を行うことがあります。
そのため、災害時に連絡を取る際には、音声通話より通信効率の高いメールや災害用伝言板などのパケット通信を利用することが望ましいとされています。また、携帯電話の電池切れに備え、モバイルバッテリーなどの予備電源を準備しておくことも重要です。
(2)緊急地震速報や避難情報の通知
携帯電話では、気象庁が発表する 緊急地震速報 や 津波警報 を、セルブロードキャストシステムと呼ばれる仕組みにより、携帯端末へ一斉に通知できます。この仕組みでは、通常のメールのように特定の相手へ送信するのではなく、対象地域の携帯電話に同時に通知が行われます。
また、自治体が発令する避難情報などを同様の仕組みで配信する エリアメール などのサービスも提供されています。
これらの通知は、通常の通信回線とは別の仕組みを利用するため、通信が混雑している場合でも比較的受信しやすいという特徴があります。また、携帯電話は常に電源が入っていることが多いため、夜間でも迅速に情報を受け取ることができます。
ただし、端末の種類や設定によっては受信できない場合があるため、対応状況は各通信事業者の案内を確認する必要があります。
災害時における利用者の備え
(1)平常時の備え
災害に備えるためには、通信サービスの利用者自身が、平常時から対策を確認しておくことも重要です。
従来の固定電話は、通信ビルからの給電により停電時でも利用できる場合がありましたが、近年は通信機器の高機能化により、商用電源を必要とする電話機が多くなっています。そのため、停電時でも利用できる電話機かどうかを確認したり、必要に応じて 無停電電源装置(UPS) を導入したりする対策を検討することが望まれます。
特に光回線を利用した電話では、電話機だけでなく回線終端装置などの通信機器にも電源が必要となるため、停電対策を考慮しておく必要があります。また、携帯電話などの代替通信手段を準備する場合には、電池の持続時間にも注意することが重要です。
(2)電話利用時の注意
災害時には、通信ネットワークの混雑を避けるため、電話の利用方法にも配慮が必要です。
固定電話では、まず 受話器が外れたままになっていないか を確認することが重要です。地震などで受話器が外れたままになると、電話が話し中の状態となり、通信の混雑を助長する原因になります。また、安否確認の際には、公衆電話や災害用伝言サービスの利用が推奨されています。
大規模災害で長時間の停電が発生した場合、街頭の公衆電話が無料で利用できるようになることがあります。通話には硬貨やテレホンカードが必要な場合もありますが、利用後に返却されることがあります。
さらに、被災地への電話はできるだけ控えめにする配慮も重要です。災害直後は電話が集中し、緊急通信や重要通信に影響を与える可能性があるためです。もし電話がつながった場合でも、通話はできるだけ短時間で済ませるよう心がけることが望まれます。
災害時の公衆無線LANの開放
東日本大震災以降、災害時の通信手段確保の重要性が改めて認識され、公衆無線LANの活用が進められています。
大規模災害時には、公衆無線LANが無料で開放されることがあり、その際には災害用の統一SSIDである 「00000JAPAN(ファイブゼロ・ジャパン)」 が使用されます。
この仕組みは、国内外からの救援者や被災者が通信手段を見つけやすくすることを目的としています。熊本地震や能登半島地震などの災害でも、公衆無線LANの無料開放が実施され、避難所などでの通信手段として活用されました。
電気通信事業者が提供する安否確認サービス
災害時には、自分の安否を家族や知人に伝えることが重要です。電気通信事業者では、通信の混雑を緩和しながら安否確認を行うためのサービスを提供しています。
(1)災害用伝言ダイヤル(171)・災害用伝言板(web171)
災害用伝言ダイヤル(171) は、被災地の人が音声で安否情報を録音し、家族や知人がその録音を再生して確認できるサービスです。
電話番号:171
語呂合わせ: 「忘れない(171)!イナイイナイ」
自分の安否を声で残す
家族のメッセージを聞く
また、インターネットを利用した 災害用伝言板(web171) では、安否情報を文字で登録し、家族などが検索して確認できます。これらのサービスは、携帯電話会社の災害用伝言板とも連携しており、相互に情報を確認できる仕組みが整備されています。
(2)携帯電話の災害用伝言板
携帯電話会社でも、災害時の安否確認のために 災害用伝言板サービス を提供しています。
このサービスでは、音声通話より通信効率の高いパケット通信を利用するため、通信が混雑している状況でも比較的利用しやすい特徴があります。
(3)安否確認方法の事前確認
災害用伝言ダイヤルや災害用伝言板は、毎月1日と15日、防災週間(8月30日〜9月5日)、正月三が日、防災とボランティア週間(1月15日〜21日)などに体験利用ができます。
災害時に円滑に安否確認ができるよう、家族や知人と事前に利用方法を確認し、安否確認の方法を決めておくことが重要です。なお、企業における社員の安否確認については、専用の安否確認システムを導入するなどの対策が必要になります。
まとめ
通信設備は耐震化や冗長化などの対策が進められていますが、大規模災害では津波や停電、通信集中など複数の要因によって通信サービスに影響が生じる可能性があります。そのため、通信事業者による設備対策だけでなく、利用者自身も通信手段の使い分けや安否確認方法の事前確認など、平常時から備えておくことが重要です。
※本ページは、防災・減災に関する基礎的な情報を、一般の方にも分かりやすく整理したものです。
災害時の判断や行動は、地域や状況によって異なるため、必ず公的機関からの最新情報を優先してください
※本ページは『防災士教本(2025年度版)』(日本防災士機構)を参考に再構成しています。
