豪雨・大雨による水害を理解する
日本の河川の特徴
日本は、季節によって気候が大きく変わります。
夏は海から湿った暖かい空気が流れ込み、雨が多くなります。冬は大陸から冷たい空気が流れ込み、日本海側では雪や雨が降りやすくなります。この季節の変わり目にあたる梅雨や秋雨の時期には、前線の影響でまとまった雨が降りやすくなります。
日本の国土は山が多く、島の中央部には高い山脈が連なっています。
そのため、川は距離が短く、傾きが急で、雨が降ると一気に水量が増えやすいという特徴があります。海外の大きな川では、普段の水量と洪水時の水量の差は数倍程度ですが、日本の川では数十倍から100倍近くになることもあります。つまり、日本の川は普段は穏やかでも、大雨のときには急激に様子が変わるのです。
さらに、日本では地震の影響で山が崩れやすく、洪水のたびに大量の土砂が川に流れ込みます。
その土砂が運ばれてできた平らな土地が「沖積平野」で、現在、多くの人が住んでいる場所でもあります。
人々は川の近くで暮らすため、堤防や護岸を整備し、洪水対策を進めてきました。
しかし、堤防が整っていない場所だけでなく、整備されている場所でも、想定を超える大雨では氾濫する危険があります。近年の水害や、2019年の台風19号では、その危険性がはっきりと示されました。
日本の川の近くで、特に平らな土地に住む以上
洪水は起こりうるものとして意識し、日頃から備えることが大切です。
洪水・氾濫とは
洪水とは、台風や大雨などによって、川に普段よりもはるかに多くの水が流れる状態のことです。
一般には「川の水があふれること」を指しますが、河川関係法は、あふれていなくても水量が大きく増えている状態も洪水と呼ばれます。
氾濫とは、増えた水によって、川の水が川の外へ流れ出たり、住宅地などが浸水したりすることです。氾濫は、大きく 外水氾濫 と 内水氾濫 に分けられます。
外水氾濫は、川の水位が上がり、堤防を越えたり決壊したりして、川の水が市街地へ流れ出るものです。一方、内水氾濫は、川から直接あふれなくても、雨水の排水が追いつかず、住宅地などが浸水するものです。
内水氾濫には、主に次の2つのタイプがあります。
氾濫型は、用水路や排水路が雨水を流しきれなくなり、あふれて浸水するものです。
湛水型は、川の水位が上がることで排水先がふさがれ、雨水が流れずにたまったり、排水路などから逆流して浸水するパターンです。
道路や建物が多い都市部では、水が地面にしみ込みにくいため、内水氾濫が起こりやすいという特徴があります。
地球温暖化と気候変動
地球温暖化の影響により、世界の平均気温は長期的に上昇を続けています。
この気温上昇は、気候の変動を大きくし、大雨や台風の強大化などの異常気象を引き起こす要因となっています。近年、日本でも短時間に激しい雨が降るケースが増えており、洪水や内水氾濫などの災害リスクが高まっています。こうした気象の変化は、私たちの暮らしや防災対策にも大きな影響を与えています。次に、気候変動と深く関係する現象について見ていきます。
エルニーニョ現象とラニーニャ現象
異常気象の原因のひとつとして、「エルニーニョ現象」と「ラニーニャ現象」があります。
どちらも、太平洋赤道域(特に東部)における海水温の変化によって起こる現象です。
海水温が平年より高くなる場合をエルニーニョ現象、低くなる場合をラニーニャ現象といいます。
この海水温の変化により大気の流れが変わり、日本付近の気圧配置や天候に影響を及ぼします。
一般に、エルニーニョ現象が発生すると、日本では暖冬や冷夏の傾向がみられることがあります。
ただし、天候はさまざまな気象要因が重なって決まるため、エルニーニョ現象やラニーニャ現象だけで気温や天候を単純に判断することはできません。
近年、日本の気温は長期的に上昇傾向にあり、特に1990年代以降は高温となる年が多くなっています。こうした背景の中で、エルニーニョ現象やラニーニャ現象は、日本の異常気象を理解するうえで重要な要素のひとつとされています。
ゲリラ豪雨
近年の都市型気象災害の一例として、マスコミなどで「ゲリラ豪雨」と呼ばれる現象があります。
夏の大都市では、エアコンや自動車の排気熱、コンクリートやアスファルトに蓄えられた熱などにより、周囲より気温が3~4℃高くなることがあります。こうした高温状態では強い上昇気流が生じやすく、積乱雲が急速に発達し、短時間の激しい雨につながると考えられています。
「ゲリラ豪雨」は正式な気象用語ではなく、明確な定義もありません。気象庁ではこのような雨を**「局地的大雨」**と呼び、「急に強く降り、短時間に狭い範囲で数十ミリの雨が降る現象」としています。
気象庁は、こうした突発的な現象に備えるため、高解像度降水ナウキャストなどの情報提供を行っています。
線状降水帯による大雨とその予測
2014年8月の広島土砂災害、2015年9月の関東・東北豪雨、2017年の九州北部豪雨などでは、線状降水帯が発生し、記録的な大雨をもたらしました。
線状降水帯とは、積乱雲が次々と発生しながら同じ場所に流れ込み、線状に連なって強い雨を降らせる現象です。このとき、既に発達している積乱雲の後方で新たな積乱雲が生まれるバックビルディング現象が起きていると考えられています。
近年、この線状降水帯を早く・正確に予測することが大きな課題となっています。
気象庁は2021年6月から、線状降水帯が発生し、局地的に大雨となっている状況を知らせる**「顕著な大雨に関する気象情報」**の運用を開始しました。
その後、情報の改善が進められ、
- 2023年5月からは、30分先までに基準を満たすと予測される場合、発生前に情報を発表
- 2024年5月からは、呼びかけの対象を地方単位から府県単位へ細分化
といった見直しが行われています。
今後も予測精度の向上が進められ、2029年には市町村単位で危険度を把握できる情報を、半日前から提供することが目標とされています。