災害に備えた電力設備の基本的な考え方
地震や台風、豪雪などによって電力設備が被災すると停電が発生する。停電の範囲や継続時間は、設備被害の規模や復旧条件によって大きく左右される。
雪害や台風による停電は、発生範囲が比較的限定され、短時間で復旧することが多い。
一方、阪神・淡路大震災や東日本大震災のような大規模地震、あるいは近年増加する激甚な気象災害では、広域停電が発生し、数日以上継続する場合もある。
停電が長期化すると、避難活動や救急医療、復旧作業に支障が生じるだけでなく、明かりの喪失は社会不安を拡大させる要因にもなる。
こうした影響を抑えるため、電力会社では次の三つを防災対策の基本としている。
① 被災しにくい設備づくり
停電そのものを発生させにくくするための対策である。
・耐災設計や補強による設備強化
・計画的な設備保守の実施
② 被災時の影響軽減
停電が起きても、範囲と時間をできるだけ小さく抑える対策である。
・24時間監視による事故拡大の防止
・設備の多重化、多ルート化によるバックアップ確保
・事故区間の局所化
③ 被災設備の早期復旧
停電の長期化を防ぐための復旧体制の整備である。
・応急復旧用資機材の確保
・迅速な復旧体制の整備
災害時の停電発生と復旧方法

(1)自動制御による事故区間の切り離し
電力設備に異常が生じると、保護装置や監視システムがそれを検知し、対象設備を電力系統から自動的に切り離す。この結果として停電が発生することがある。家庭でも同様に、配線や電気機器の異常が起きた場合にはブレーカーが作動し、電気が遮断される。
単一設備の故障であれば、故障設備を系統から切り離し、健全な系統から送電を行うことで、比較的短時間で停電が解消されることが多い。また、配電線で事故が起きた場合には、自動停電復旧システムによって事故区間を特定し、健全区間へ送電する仕組みが利用されることもある。
(2)大規模地震発生時の停電復旧
変電設備が被災すると、広範囲の停電につながることがある。この場合でも、系統切替や被災設備の切り離し、多重化された設備の利用、移動用機器による送電などにより、多くの地域では1〜2日程度で停電が解消されることが多い。
しかし、配電設備が建物倒壊、火災、土砂災害、津波、液状化などの影響を受け、電柱倒壊や電線断線が広範囲に発生すると復旧は大きく遅れる。
さらに道路が寸断されると、復旧要員や資機材の搬入が難しくなり、停電が長期化する可能性がある。阪神・淡路大震災や東日本大震災の経験から、このような場合には応急送電まで数日から1週間程度を要することも想定されている。
災害事例
① 北海道胆振東部地震(2018年)
2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震では、北海道内約295万戸で停電が発生した。信号機の停止によりバス・鉄道・空港など交通機関にも影響が及び、地域生活に大きな混乱が生じた。復旧後もしばらくは平常時より1〜2割程度の節電が求められた。
② 令和元年房総半島台風・東日本台風(2019年)
2019年9月の令和元年房総半島台風では、東京電力管内で約93万戸が停電した。倒木による設備被害と道路寸断が重なり、復旧まで約2週間を要した。
続く10月の令和元年東日本台風では、中部から関東、東北にかけて広い地域で河川氾濫が発生し、最大約52万戸が停電した。東京電力管内では発災当日に約44万戸が停電し、4日後にすべての停電が解消した。
③ 令和6年能登半島地震(2024年)
2024年1月1日に発生した能登半島地震では、石川県能登地方で最大震度7を観測し、最大約4万戸で停電が発生した。奥能登地域では土砂崩れなどによる道路寸断が多く、復旧作業車両の進入が困難となったため復旧に時間を要した。
北陸電力送配電では全国の電力会社から応援を受け、約1000人規模で復旧作業を実施し、立入困難地域を除いて約1か月で送電が完了した。
迅速な復旧を目指した体制
大規模災害時には、電力会社の運転・保守員が24時間体制で初期対応を行い、社内で非常態勢を発令して組織的な復旧活動を開始する。
① 非常態勢の発令
災害発生時や発生が予想される場合には、非常災害対策本部が設置される。対策本部では被災設備や停電状況、関係機関からの要請などを把握し、復旧効果の大きい設備から優先的に復旧を進める。
② 応急復旧用資機材の確保
電力会社では通常の工事資材に加え、応急復旧用資機材を各地に備蓄している。旧型設備や特殊設備など調達に時間を要するものについては予備設備も確保し、他電力会社との資機材融通体制も整備されている。
③ 特殊車両の配備
停電の長期化に備え、発電車や移動用変圧器車などの特殊車両が配備されている。これにより、病院や復旧拠点など優先度の高い施設へ電力を供給することが可能となる。
需要家側のBCP対策
近年は脱炭素の取り組みとして、太陽光発電、蓄電池、電気自動車の導入が進んでいる。これらは停電時の非常用電源としても利用でき、需要家側のBCP対策として有効である。
防災基本計画では、自治体の自衛措置として発災後72時間の非常用電源確保に努めることが示されている。
これを踏まえ、病院、学校、商業施設などでは約72時間の電力を確保できる非常用発電設備の整備が重要とされている。
復旧時には医療機関、避難所、上下水道施設、通信施設など社会機能の維持に不可欠な施設への送電が優先される。これらの施設の電力確保が、救命活動や避難生活の維持を支える。
電気による二次災害の防止(家庭で気をつけること)
災害で電気設備に異常が生じると、多くの場合は保護装置が働き停電となるため、感電事故の可能性は比較的小さい。ただし、断線した電線などは異常が検知されない場合もあり、感電の危険がある。
地震時には電気火災が発生することがある。電気ストーブや電気コンロなどの電熱器具が転倒・破損し、可燃物に接触することで発火するケースである。また停電中に避難した後、通電再開時に発生する火災は通電火災と呼ばれる。
このため電力会社では、送電再開時に安全確認を行いながら復旧作業を進めている。国でも感震ブレーカーや感震機能付分電盤の普及が進められている。
災害時の電気災害を防ぐために家庭で注意すること
① 強い揺れを感じたら身の安全を確保し、その後電気器具のスイッチを切りプラグを抜く。
② 電気器具が燃えた場合は水をかけず、ブレーカーを切ったうえで消火器を使用する。
③ 災害時の避難ではエレベーターを使用しない。
④ 避難時には分電盤のブレーカーを切る。
⑤ 切れて垂れ下がった電線には絶対に触れない。
⑥ 壊れたり水につかった電気器具は使用しない。
まとめ
・停電の範囲や復旧時間は、設備被害の規模や道路状況などによって大きく変わる。
・電力会社の防災対策は「被災しにくい設備」「影響の最小化」「早期復旧」の三つが基本である。
・大規模災害では、変電設備や配電設備の被害により広域停電が発生することがある。
・復旧では医療機関や避難所など、社会機能の維持に重要な施設への送電が優先される。
・家庭でも電気火災や感電事故を防ぐための基本的な行動を知っておくことが重要である。
※本ページは、防災・減災に関する基礎的な情報を、一般の方にも分かりやすく整理したものです。
災害時の判断や行動は、地域や状況によって異なるため、必ず公的機関からの最新情報を優先してください
※本ページは『防災士教本(2025年度版)』(日本防災士機構)を参考に再構成しています。
