避難行動要支援者|個別避難計画の進め方

災害時要配慮者と避難行動要支援者の定義

災害時に情報の入手や自力避難が困難な方々を支えるため、地域社会での継続的な支援体制の構築が不可欠です。

  • 災害時要配慮者: 高齢者、障害者、乳幼児、妊婦、外国人など、避難生活において配慮を必要とする方々の総称。
  • 避難行動要支援者: 要配慮者のうち、自力避難が困難で特に支援を必要とする方(災害対策基本法にて定義)。
🛡️ 地域で守る支援の対象と仕組み
災害時要配慮者(広義の対象)
高齢者・障害者・乳幼児・妊婦・外国人など
避難行動要支援者
(特に自力避難が困難な方)
最新の重点施策:個別避難計画

「誰が・どこへ・どう逃げるか」を一人ひとり決めておく計画です。

法改正による支援体制の強化

近年の法改正により、自治体による支援の義務化が進んでいます。

  • 2013年改正: 市町村に「避難行動要支援者名簿」の作成が義務付けられました。
  • 2021年改正: 一人ひとりに合わせた「個別避難計画」の作成が市町村の努力義務となり、より実効性の高い支援体制(取組指針の改訂)へと進化しています。

個別避難計画の作成

📝 個別避難計画に盛り込むべき4要素
1. 避難先
福祉避難所や親戚宅など、特性に合った場所
2. 避難経路
車いすや介助者が通れる安全なルート
3. 支援者
近隣住民やボランティアなど(複数名)
4. 緊急連絡先
本人・家族・医療機関・担当ケアマネ等
平常時から「本人・支援者・自治体」で共有することが重要です。

改訂された指針では、市町村が主体となり、地域の実情に応じて優先度の高い避難行動要支援者について個別避難計画の作成を進めることが示されています。目安として、おおむね5年程度で計画作成に取り組むことが望ましいとされています。

また、個人番号(マイナンバー)を活用することで、避難行動要支援者名簿や個別避難計画に必要な情報を取得しやすくなり、自治体職員の業務負担の軽減や、より実態に即した支援につながることが期待されています。

個別避難計画を作成する際には、次のような点に留意する必要があります。

  • 本人の状況をよく理解している福祉専門職の参画
  • 避難支援者の確保(個人だけでなく自主防災組織や自治会などの団体も含む)
  • 支援者の負担軽減のための役割分担
  • 避難訓練を通じた計画内容の確認と改善
  • 本人の同意を得たうえでの情報共有
  • 社会福祉施設などから在宅へ移行した人への継続的な支援

2-2 災害時要配慮者の情報確認

災害時に要配慮者の安否確認や避難誘導を適切に行うためには、地域の中にどのような要配慮者がいるのかを把握しておくことが重要です。現在、多くの自治体では次の三つの方法が用いられています。

① 関係機関情報共有方式
自治体の福祉部局と防災部局などが情報を共有し、支援体制を構築する方法です。個人情報保護条例の規定を活用して情報共有が行われます。

② 手上げ方式
要配慮者登録制度を設け、本人の意思で登録してもらう方法です。

③ 同意方式
自治体職員や自主防災組織、民生委員などが本人に働きかけ、同意を得て情報を登録する方法です。

2-3 要配慮者利用施設における「避難確保計画」の義務化

浸水想定区域や土砂災害警戒区域内に所在する「要配慮者利用施設」については、水防法(第15条)および土砂災害防止法に基づき、施設利用者等の安全を確保するための行動が義務付けられています。

🏢 施設管理者が実施すべき3つの防災実務
1. 避難確保計画の作成 義務

防災体制や避難経路、資機材の整備計画を策定し、市町村長へ報告する必要があります。

2. 避難訓練の実施 義務

計画に基づき、施設職員や利用者による実地訓練を定期的に行う必要があります。

3. 自衛水防組織の設置 努力義務

洪水時等に施設自らが水防活動や避難誘導を行う組織を構築することが推奨されます。

※浸水想定区域・土砂災害警戒区域内の施設が対象です。

2-4 介護サービス事業者のBCP策定

厚生労働省は、介護報酬改定により、すべての介護サービス事業者に対してBCP(業務継続計画)の策定を義務付けました。これは、感染症や自然災害が発生した場合でも介護サービスを継続できる体制を整えることを目的としています。

この制度は3年間の猶予期間を経て、2024年から義務化されています。

しかし、介護現場では人員や時間に余裕がない場合も多く、BCP策定や訓練の実施には、防災士など専門的知識を持つ人材の支援が期待されています。

3 避難支援の課題

3-1 複数の支援体制

避難支援では、一人の要配慮者に対して複数の支援者を確保することが重要です。

例えば、日中と夜間、地震災害と豪雨災害など、状況によって対応できる支援者が異なる可能性があります。支援体制が一つしかない場合、災害時に支援者が地域にいないと避難支援が機能しない可能性があります。

また、要配慮者の生活状況は人それぞれです。車いす、医療機器、常用薬、生活用品など、必要な物資も異なります。ペットを飼っている場合は、ペットの避難や餌の確保も考えておく必要があります。

日頃から支援する側と支援される側が話し合い、必要な支援内容を共有しておくことが大切です。

なお、車いす利用者や寝たきりの人を人力で安全に移動させる場合には、5人程度の支援者が必要になることもあります。

【現場のリアル】車いす避難には「5人」の力が必要です

段差や坂道がある避難経路では、車いす利用者1人を安全に運ぶために「前後左右に4人 + 司令塔(路面確認)1人」の計5人程度の支援者が理想とされています。1人や2人では、支援者自身が転倒して共倒れになるリスクがあるため、地域での「複数人支援体制」の構築が不可欠です。

3-2 家族や支援者が確認しておきたいこと

自治体による名簿作成や個別避難計画とあわせて、家庭や地域でも備えを進めておくことが重要です。

主な確認事項として、次のような点が挙げられます。

① 身分証や緊急連絡先の携帯
運転免許証や障害者手帳、母子健康手帳などの身分証とともに、緊急連絡先やかかりつけ医療機関を記載したカードを携帯しておく。

② 非常持ち出し品の準備
常用薬やお薬手帳、医療機関の連絡先、補聴器や老眼鏡など、個人の状況に応じた物品を準備しておく。

③ 避難場所と連絡方法の確認
家族で避難場所や避難経路を話し合い、共通の連絡先(遠方の親戚など)を決めておく。

④ 補助犬やペットの備え
補助犬やペットがいる場合は、食料や必要な用品を準備しておく。

3-3 地域での支援体制

災害時要配慮者への支援は、自治体や福祉専門職だけでは十分に対応できない場合があります。そのため、自主防災組織や自治会、社会福祉協議会、NPOなどが連携して支援体制を整えることが重要です。

地域では、地区防災計画や自主防災組織のマニュアルに要配慮者支援の仕組みを明記し、訓練などを通じて実効性を高めておくことが望まれます。

💡 住民ができる3つの具体的アクション

自治体の計画を待つだけでなく、私たち一人ひとりが今日からできる「共助」があります。

  1. 「防災散歩」で顔の見える関係を: 普段の散歩時に「車いすが通れるか」「段差はないか」を意識して歩き、近所の要配慮者宅の状況を把握しておきましょう。
  2. 「声かけ」を習慣に: いきなり抱え上げるのではなく、まずは「何かお手伝いできることはありますか?」と聞く勇気を持つことが、真の共助の第一歩です。
  3. 「検証型訓練」への参加: 避難訓練では「ただ歩く」だけでなく、実際に車いすを複数人で操作し、砂利道や段差などの困難箇所を実体験して改善点を見つけましょう。

4 住民による障害者支援

4-1 障害者の状況

内閣府の「障害者白書」によると、日本には多くの障害者が生活しています。身体障害、知的障害、精神障害を合わせると、人口の約9%程度が何らかの障害を持っているとされています。

このことから、障害者支援は家族や福祉関係者だけで対応できるものではなく、地域社会全体で支えていく必要があります。日頃から地域住民が顔の見える関係を築き、それぞれの障害に応じた支援方法を理解しておくことが重要です。

4-2 災害時に起こりやすい困難

障害の種類や程度によって異なりますが、災害時には次のような困難が生じる場合があります。

  • 災害情報が伝わりにくい
  • 状況を把握しにくい
  • 自力での避難が難しい
  • 避難所生活に適応しにくい
  • 医療機器が使用できない場合がある
  • 支援者も被災し孤立する可能性がある

避難所での障害別・配慮ポイントリスト

  • 視覚障害者:【情報のバリアフリー】
    • 周囲の状況(今何が起きているか、誰がいるか)を声で伝える。
    • お弁当の献立や、掲示板の内容を読み上げる。
    • トイレや給水所の場所まで「クロックポジション(時計の針の方向)」で説明する。
  • 聴覚障害者:【視覚的な情報伝達】
    • 放送内容は必ず「紙に書いて掲示」するか「スマホの画面」で見せる。
    • 「筆談ボードあります」という張り紙を、本人の見える位置に貼る。
    • 非常ベルが聞こえないため、緊急時は肩を叩いて知らせる。
  • 知的・発達障害者:【安心できる環境作り】
    • パニックを避けるため、静かなスペース(段ボールの仕切り等)を優先的に確保する。
    • 予定の変更や次の行動は、イラストや写真を使って「目で見える形」で伝える。
    • イヤーマフや、使い慣れたタオルなどの持ち込みを容認する。
  • 内部障害・難病:【目に見えない障害への理解】
    • 外見では分からなくても、疲れやすかったり医療機器(ストーマや酸素吸入器)が必要な場合がある。
    • 「ヘルプマーク」を付けている人には、優先的に椅子や横になれる場所を譲る。

4-3 住民による具体的な支援アクション

地域住民が協力して行える支援は、「情報の伝達」と「移動のサポート」が中心となります。支援を始める際は、まず「何かお手伝いしましょうか?」と声をかけ、本人の希望を確認することが鉄則です。

■ 避難時の主な取り組み

  • 情報伝達: 災害の状況や避難指示などを、相手に合わせた方法でわかりやすく伝える。
  • 避難誘導: 安全な場所への移動を支援する。特に車いす等の場合は、複数人での対応を基本とする。

■ 避難誘導時の配慮ポイント 具体的な誘導方法は、障害の特性に合わせて以下のように工夫します。

🤝 障害特性に合わせた支援のポイント
障害種別 具体的な誘導・支援方法
視覚障害 半歩前を歩き、肘や肩を軽く持ってもらう。段差や曲がり角を具体的に伝える。
聴覚障害 正面から顔を見せてゆっくり話す。筆談、身振り、スマホの文字入力を活用する。
肢体不自由 段差は複数人で。車いすは坂道や段差での操作(前輪を浮かす等)を事前に声かけする。
知的・精神 「逃げて」より「こちらへ来てください」と具体的に。短い言葉で優しく伝える。

💡 共通のルール:

  • 支援前に必ず声をかける(いきなり体に触れない)。
  • 視覚障害者を強く引いたり押したりしない。
  • 周囲の状況を実況するように説明しながら誘導する。
  • 知的・精神障害のある人には、短い言葉でゆっくり説明する。

まとめ

災害時要配慮者や避難行動要支援者の安全を確保するためには、行政による制度整備だけでなく、地域社会による支援体制の構築が重要です。名簿や個別避難計画の整備に加え、日頃から地域で顔の見える関係を築き、支援方法を共有しておくことが求められます。

また、避難支援は一人で対応できるものではなく、複数の支援者や地域組織が協力して行うことが重要です。平常時から訓練や話し合いを重ねることで、災害時に実際に機能する支援体制を整えておくことが大切です。

※本ページは、防災・減災に関する基礎的な情報を、一般の方にも分かりやすく整理したものです。
災害時の判断や行動は、地域や状況によって異なるため、必ず公的機関からの最新情報を優先してください

※本ページは『防災士教本(2025年度版)』(日本防災士機構)を参考に再構成しています。

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