避難生活でどう命を守るか

震災関連死(災害関連死)

長引く避難生活で防ぐ「災害関連死」

地震による犠牲は、家屋の倒壊や津波などによる「直接死」だけではありません。避難生活による体調悪化や持病の悪化、精神的ストレスなどが原因で亡くなる「災害関連死」があります。

過去の大規模災害では、直接死よりも災害関連死の方が多くなった事例も報告されています。

災害関連死の主な原因として、

  • トイレを我慢することによる脱水
  • エコノミークラス症候群
  • 感染症
  • 熱中症
  • 避難生活による心身の疲労やストレス

などが挙げられます。

これらの多くは、正しい知識と日頃の備えによって予防できる可能性があります。避難生活で命を守るために、まずは災害関連死のリスクについて理解しておきましょう。

トイレの重要性

避難所ではトイレの数が不足しやすく、さらに仮設トイレが居住スペースから離れた場所に設置されることも少なくありません。その結果、トイレの利用回数が多い高齢者が水分摂取を控えるようになり、体調を崩してしまうことがあります。

水分不足は脱水を招くだけでなく、血液が濃くなることで血栓ができやすくなり、エコノミークラス症候群のリスクを高めます。また、高血圧などの持病の悪化や肺炎につながることもあります。阪神・淡路大震災では、このような避難生活中の健康悪化が災害関連死の一因になったと指摘されています。

さらに、避難所生活では長時間同じ姿勢で過ごすことも多いため、エコノミークラス症候群のリスクはより高まります。

このような事態を防ぐためには、高齢者を含め誰もが安心して利用できるトイレ環境を整えることが重要です。

エコノミークラス症候群

エコノミークラス症候群は、長時間同じ姿勢を続けることで血流が悪化し、血栓ができることで発症します。車中泊が原因となるケースが多いとされていますが、車中泊でなくても、避難所生活の中で長時間足を動かさない状態が続けば発症する可能性があります。

実際に熊本地震では、避難生活中にエコノミークラス症候群を発症した事例が報告されました。そのため、避難生活では次のような予防対策が推奨されています。

・こまめに水分を補給する
・足首を回す、足の指を動かすなどの体操を行う
・ふくらはぎをマッサージする

避難生活では身体活動が減少しやすいため、意識して体を動かすことが重要です。

🦵 エコノミークラス症候群の予防ポイント
💧 こまめな水分補給
水分不足は血液が濃くなり、血栓ができやすくなります。
🔄 足首や足指を動かす
足首回しやつま先の曲げ伸ばしを定期的に行いましょう。
🚶 できる範囲で歩く
長時間同じ姿勢を避け、無理のない範囲で体を動かしましょう。
⚠ 注意
足の腫れや痛み、息苦しさ、胸の痛みなどの症状がある場合は、 速やかに医療機関へ相談してください。

感染症対策

過去の大規模災害では、多くの避難所で「密閉・密集・密接」、いわゆる3密の状態が避けられませんでした。通路が確保できないほど混雑する避難所も見られました。

避難所では、多くの人が共同生活を送るため、一人が感染すると集団感染につながるおそれがあります。そのため、感染症対策は避難生活における重要な課題の一つです。

避難所で感染症の拡大を防ぐためには、次の三つの対策が重要です。

  • 避難所や避難先を増やす
  • 避難所へ避難する人数を減らす
  • 避難所内で感染防止対策を徹底する

(1)避難所収容人数の見直し

感染症対策では、避難者同士の距離を確保する必要があります。

岐阜県庁の避難所運営マニュアルでは、従来300人収容できた体育館の場合、2mの距離を確保すると約130人程度、パーティションを使用しても約200人程度になるとされています。

そのため、各自治体は避難所の収容可能人数を見直し、必要に応じて新たな避難所の指定や協定の締結を進めることが求められています。

(2)避難所のゾーニング

感染症対策では、避難者の健康状態に応じて生活エリアを分ける「ゾーニング」が重要です。感染者や発熱者、要配慮者、一般避難者の生活空間を分けることで、感染拡大を防ぎます。

🛡️ 感染症を防ぐ「避難所ゾーニング」
【隔離エリア】
感染者・発熱者など。動線やトイレも完全に分離。
【要配慮エリア】
高齢者、乳幼児、持病のある方。感染から守る優先ゾーン。
【一般エリア】
健康な一般避難者。密を避け、対面を控えて配置。
受付での「検温・聞き取り」が適切なゾーニングの第一歩です。

これらのエリアは居住スペースだけでなく、トイレや移動経路も分けることが望ましいとされています。

(3)事前受付による水際対策

受付での主な実施項目

  • 健康スクリーニング: 検温の実施、および発熱や咳などの症状の有無を確認。
  • 衛生管理の徹底: 手指消毒の実施、およびマスク着用の呼びかけと確認。

(4)換気・消毒・清掃

🧼 避難所の感染症対策チェックリスト
個人の行動
  • 2mの距離確保
  • 手洗い・マスク
  • 毎朝の検温
  • 体調不良の報告
運営側の整備
  • 30分に1回の換気
  • 共有部の消毒
  • 受付での検温
  • 動線の分離
🌀 正しい換気:二方向の窓を開けて空気の通り道を作りましょう

換気は空気を循環させることではなく、室内の空気を入れ替えることです。窓や扉を二方向開放し、30分に1回程度を目安に換気を行うことが望ましいとされています。

在宅避難・分散避難

避難とは、文字通り「難を避ける」ことです。

そのため、必ずしも指定避難所へ行くことだけが避難ではありません。自宅が安全で生活を継続できる場合は「在宅避難」、親族宅や知人宅などへ移動する「分散避難」も有効な避難方法です。

重要なのは、災害時に危険な場所から離れ、安全な場所で生活を続けることです。

避難所の感染症リスクや環境ストレスを回避する手段として、在宅避難や分散避難が注目されています。ただし、これらを選択するためには、平常時からの備え(自助)が不可欠です。

女性への配慮

大規模災害では、女性や子どもが深刻な影響を受けやすいことが指摘されています。東日本大震災では、地域によって女性の犠牲者数が男性を上回るなど、女性が深刻な影響を受けたことが報告されています。また、避難生活では、生理用品の不足や更衣場所の確保、授乳スペース、防犯対策など、女性特有の課題が発生します。

そのため避難所では、女性の意見を運営に反映しながら、安全で安心して生活できる環境を整えることが重要です。

避難所で起こりやすい課題

避難所では、多くの人が限られた空間で共同生活を送るため、女性特有の困りごとが発生することがあります。

  • 着替えのスペースがない
  • 授乳スペースがない
  • 生理用品が不足する
  • プライバシーが確保しにくい
  • 夜間トイレへの不安
  • 性暴力や盗撮などの防犯上の不安

避難所における女性への配慮

🚺 避難所運営・女性への配慮ポイント
🛡️ 安全・防犯
  • 女性専用の更衣室・授乳室
  • 明るさの確保や見回りを行った男女別トイレ
  • DV被害者等に配慮した個人情報管理
📋 運営体制
  • 役員への女性登用
  • 女性専用の相談窓口
  • 炊き出しや清掃などの役割を男女で分担する
📦 備蓄・物資

生理用品、下着、簡易化粧品、鏡、ブラシなど、女性の尊厳を守る物資を常備する。

女性の意見を運営に反映する

女性への配慮を実現するためには、避難所運営に女性が参加することも重要です。女性専用スペースや必要な物資、防犯対策などは、実際に女性の意見を取り入れることで改善されやすくなります。

自主防災組織や自治会でも、日頃から女性が防災活動へ参加し、訓練や計画づくりに関わることが望ましいとされています。

外国人への支援

近年、日本を訪れる外国人観光客や日本で生活する外国人は増加しています。ここで課題となるのが「災害リスクの共有」です。世界には地震や台風を経験したことがない国も多く、外国人にとって日本の災害を具体的に想像することは容易ではありません。特に日本語に不慣れな場合、「避難指示」や「津波」といった言葉の意味を瞬時に理解できず、行動が遅れるリスクがあります。

外国人が直面しやすい課題

外国人は言語や文化の違いから、災害時に次のような困りごとに直面することがあります。

  • 避難情報の意味が分からない
  • 避難看板やハザードマップが読めない
  • 避難所のルールが分からない
  • 日本語で相談できない
  • 家族や知人と連絡が取れない

命を救う「やさしい日本語」

🗣️ 命を救う「言い換え」の極意
【避難】難しい言葉を避ける
× 避難してください
➔ 逃げて! (Run!)
【場所】具体的に伝える
× 高台へ移動
➔ 高いところへ! (High ground!)
【誘導】迷わせない指示
× 一緒に行こう (Let’s go)
➔ ついてきて! (Follow me)
※Let’s goは「勧誘」に聞こえることがありますが、Follow meは明確な「誘導指示」として確実に伝わります。

外国人支援の取り組み

外国人が安心して避難できるよう、多くの自治体では多言語による情報提供や相談窓口の設置を進めています。

また、災害時には「災害多言語支援センター」が設置され、通訳ボランティアの派遣や避難情報の翻訳支援が行われる場合があります。スマートフォン向けには、観光庁が提供する「Safety tips」などの災害情報アプリも活用されています。

言葉の壁がある外国人に対しては、平常時から情報共有の方法を確認し、災害時に迅速な避難行動が取れるよう備えておくことが重要です。

要配慮者への支援

要配慮者とは

災害対策基本法では、「高齢者、障害者、乳幼児、妊婦、傷病者など、災害時に特に配慮を必要とする人」を要配慮者と定義しています。

主な要配慮者の例

  • 高齢者
  • 障害者
  • 乳幼児
  • 妊婦
  • 傷病者
  • 難病患者
  • 医療機器利用者 など

東日本大震災では、高齢者や障害者だけでなく、乳幼児のいる家庭や外国人など、多様な人々への支援が必要になることが明らかになりました。

日常的に介護や支援が必要な人は、災害時には福祉避難所の利用が望ましいとされています。しかし、福祉避難所には受け入れ人数の限りがあるため、多くの要配慮者は一般の避難所で生活することになります。

そのため、一般の避難所においても、要配慮者が安心して生活できるよう支援体制を整えることが重要です。

災害時に起こりやすい困難

障害の種類や程度によって異なりますが、災害時には次のような困難が生じる場合があります。

  • 災害情報や避難情報が伝わりにくい
  • 周囲の状況を把握しにくい
  • 自力での避難が難しい
  • 避難所生活に適応しにくい
  • 医療機器や補助機器が使用できなくなる場合がある
  • 介助者や支援者も被災し、必要な支援を受けられなくなる可能性がある

これらの困難は外見から分かりにくい場合もあります。そのため、避難所では周囲が状況を理解し、必要な支援につなげることが重要です。

③ 家族や支援者が確認しておきたいこと

自治体による名簿作成や個別避難計画とあわせて、家庭や地域でも備えを進めておくことが重要です。

主な確認事項として、次のような点が挙げられます。

① 身分証・医療情報の携帯

運転免許証や障害者手帳、母子健康手帳などの身分証とともに、緊急連絡先、かかりつけ医療機関、服薬情報などを記載したカードを携帯しておきます。

② 非常持ち出し品の準備

常用薬、お薬手帳、医療機関の連絡先、補聴器、老眼鏡、医療機器の予備電源など、個人の状況に応じた物品を準備しておきます。

③ 避難場所と連絡方法の確認

家族で避難場所や避難経路を話し合い、災害時の集合場所や共通の連絡先(遠方の親戚など)を決めておきます。

④ 補助犬やペットの備え

補助犬やペットがいる場合は、食料や水、必要な用品を準備しておきます。

特に医療や介護が必要な人は、支援者が不在となった場合を想定し、第三者にも必要な情報が伝わるよう準備しておくことが大切です。

車いす避難には複数人の支援が必要

段差や坂道、階段がある避難経路では、車いす利用者を安全に避難させるために複数人の支援が必要になる場合があります。

状況によって異なりますが、階段での搬送などでは「前後左右に4人+周囲の安全確認を行う1人」の計5人程度の支援体制が望ましいとされています。

1人や2人だけで無理に搬送すると、支援者自身が転倒し、共倒れになる危険があります。そのため、平常時から家族や地域で避難方法を確認し、複数人で支援できる体制を整えておくことが重要です。

避難所での障害別・配慮ポイントリスト

肢体不自由者(車いす利用者など):【移動と生活環境への配慮】

  • 段差や階段を避けた移動経路を確保する
  • トイレや給水所に近い場所を優先的に確保する
  • 車いすの充電や医療機器の電源確保に配慮する
  • 必要に応じて複数人で移動を支援する

視覚障害者:【情報のバリアフリー】

  • 周囲の状況(今何が起きているか、誰がいるか)を声で伝える。
  • お弁当の献立や、掲示板の内容を読み上げる。
  • トイレや給水所の場所まで「クロックポジション(時計の針の方向)」で説明する。

聴覚障害者:【視覚的な情報伝達】

  • 放送内容は必ず「紙に書いて掲示」するか「スマホの画面」で見せる。
  • 「筆談ボードあります」という張り紙を、本人の見える位置に貼る。
  • 非常ベルが聞こえないため、緊急時は肩を叩いて知らせる。

知的・発達障害者:【安心できる環境作り】

  • パニックを避けるため、静かなスペース(段ボールの仕切り等)を優先的に確保する。
  • 予定の変更や次の行動は、イラストや写真を使って「目で見える形」で伝える。
  • イヤーマフや、使い慣れたタオルなどの持ち込みを容認する。

内部障害・難病:【目に見えない障害への理解】

  • 外見では分からなくても、疲れやすかったり医療機器(ストーマや酸素吸入器)が必要な場合がある。
  • ヘルプマークを付けている人や、外見から分かりにくい障害のある人にも配慮し、必要に応じて椅子や休養スペースを確保する。

避難所生活と食の問題

避難所では、食事や栄養の偏りも大きな課題になります。発災直後は命をつなぐために食べることが重要ですが、避難生活が長期化すると、栄養バランスの偏りやカロリー過多にも注意が必要になります。

近年は、非常時に「最低限食いつなぐ」ことを目的とした非常食だけでなく、被災後の健康維持を考えた「災害食」という考え方も広がっています。

  • 低栄養防止:高齢者向けの介護食(スマイルケア食)の備蓄
  • 健康維持:ビタミン、ミネラル、食物繊維を補う野菜ジュースや乾燥野菜の活用
  • 心理的ケア:甘いものや温かい汁物によるストレス緩和

避難生活では、高齢者や乳幼児など、特別な配慮が必要な人への対応も重要です。高齢者の中には柔らかい食事が必要な人もおり、乳幼児にはミルクや離乳食が欠かせません。

熊本地震の教訓を踏まえ、乳児用液体ミルクの国内製造・販売も可能となり、災害時の備えとして普及が進んでいます。

食物アレルギーのある人にとっては、避難所で配布される食事や支援物資の内容が命に関わる場合があります。そのため、アレルギー表示を確認し、自分に必要な非常食や常備薬を準備しておくことが重要です。

⚠️ 食物アレルギー表示対象品目(特定原材料等)
表示義務
(8品目)
えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)、くるみ

食物アレルギーのある人は、非常食や常備薬を平常時から準備しておくことが重要です。

多様な食文化への配慮

避難所には外国人観光客や在住外国人が避難してくることがあります。

宗教や文化によって食べられない食品がある場合もあり、可能な範囲で配慮することが望まれます。例えば、イスラム教徒(ムスリム)の中には、豚肉やアルコールを含む食品を避ける人がいます。イスラム法で認められた食品は「ハラール食品」と呼ばれます。

熊本地震では、外国人や食の制限がある人々にも避難所運営へ参加してもらい、互いの文化や習慣を理解しながら共同生活を行った事例もありました。

避難生活では、単に空腹を満たすだけでなく、健康を維持しながら生活を続けることが重要です。高齢者や乳幼児、食物アレルギーのある人、宗教や文化によって食事制限のある人など、多様な人々への配慮を忘れないことが、避難所での安全で安心な生活につながります。

※ 本ページは、日本防災士機構発行の『防災士教本(2025年度版)』を参考に、一般の方にも分かりやすく再構成したものです。
※ 掲載情報は細心の注意を払っておりますが、実際の災害時の判断や行動は、お住まいの地域や状況によって異なります。必ず内閣府や気象庁、自治体などの公的機関から発表される最新情報を優先してください。
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